あえて出社する価値のあるオフィスとは。
イノベーションを促進する“ワークキャンパス”を目指して。
MonotaRO × ディー・サイン × 日建設計コンストラクション・マネジメント
(央)堤 成郎 氏(株式会社MonotaRO 人材組織開発部門総務グループ長)
(左)沼尾 知哉 氏(株式会社ディー・サイン 執行役員)
(右)山畑 毅(NCM マネジメント・コンサルティング部門アソシエイト)
事業者向けに間接資材を取り扱うネット販売会社として、2000年に創業した株式会社MonotaRO(以下:MonotaRO)。同年オープンしたECサイト「モノタロウ( https://www.monotaro.com )」には、切削工具や研磨材などの工業用資材、自動車関連商品、種々の工事用品、梱包・補修・清掃・安全・事務用品・日用品など、現場や工場で必要とされる間接資材の数々が並びます。その数はプライベートブランド商品を含めて2,000万点超。資材調達ネットワーク変⾰に挑み、“現場を支えるネットストア”として築いた牙城は盤石で、2023年12月期決算まで14期連続で最高益を更新し続けています。
同社は2023年11月に、兵庫県尼崎市から大阪・梅田に本社移転を行いました。大阪駅から直結のJPタワー大阪の2フロア、約8,000㎡となるオフィスの設計・施工にあたって、日建設計コンストラクション・マネジメント(以下:NCM)では、プロポーザルを経てプロジェクトの基本計画段階からマネジメント業務を行っています。
移転プロジェクトを率いた同社人材組織開発部門総務グループ長の堤 成郎(つつみ しげお)さん、プロポーザル段階から設計者としてNCMとタッグを組んだ株式会社ディー・サイン(以下:ディー・サイン)執行役員の沼尾 知哉(ぬまお かずさ)さん、NCM マネジメント・コンサルティング部門アソシエイトの山畑 毅の3人で、プロジェクトを振り返りました。
マネジメント会社 × デザイン会社のコラボにて、さらなる急成長を見据えた本社移転プロジェクト
まずは新本社プロジェクトの概要からお話しいただけますか?
株式会社MonotaRO 堤 成郎(以下堤)
私たちの創業は大阪市西区。直前の本社は、2014年に移転した阪神出屋敷駅前のビル内でした。そこが手狭になってきたため、2018年〜19年あたりから移転を考え始めたのです。
計画段階はまだコロナ禍以前で、社員数もどんどん増えていく方向でしたから、いよいよオフィス面積が足りなくなることが見えていました。
最初のうちは候補の範囲もかなり広く、さまざまなビルをあたったり、土地の購入も検討したりと、数年はいろんな物件を探していたかと思います。
当初からこだわっていたのが、ワンフロアの面積がなるべく広いこと。社員がより活発に会話を交わしながら仕事を進めていける場所を期待していたのです。そんな中で利便性も高い梅田駅近辺が有力になっていき、紆余曲折を経てこのJPタワー大阪に決まりました。
NCM 山畑 毅(以下山畑)
私たちがプロポーザルの話をいただいたのは2021年のことですから、リサーチの期間がけっこう長かったのですね。4社によるプロポーザルだったと記憶しています。
堤
当初から、この移転にはプロジェクトマネジメント会社の存在が不可欠だと考えていました。私は前回の出屋敷への本社移転も担当したのですが、今回はスケジュールもかっちりと決まっているし、かつ建設中の建物に入居しなくてはならない。以前の経験があったからこそ、到底自分たちだけでやれるプロジェクトではないと思いました。この規模のプロジェクトを我々のチームだけでやるならば、専門的な知識を持った専任者2名を2年間はつけなくてはならなかったでしょう。ですが当然ながらそういった経験・知見のある人間は弊社にはいませんから。
山畑
プロポーザルにお声がけをいただいて、弊社では提案段階からディー・サインさんとのコラボレーション体制を組みました。堤さんはもちろん覚えておいでだと思いますが、私たちのチームは提案書の要綱書にあった、新オフィスのレイアウトプランを入れない案でプレゼンしたんです。そもそもプロポーザルの要求事項を満たしていないという!
ディー・サイン 沼尾 知哉(以下沼尾)
一応、真面目にレイアウトも描いていますけどね!(笑)
当初MonotaROさんは、JPタワー大阪のワンフロアのみを借りる予定でした。ところが、要綱書にあったオフィスへのご要望や機能をすべて入れ込むと、どうもいい未来図が描けなかった。機能を詰め込むとそれだけで一杯になってしまって、求められているオフィスにならないと考えたのです。
そこで、そんな絵を出すくらいならいっそのこと入れない方がいいのではないか、機能面を抑える前に、そもそもどういうオフィスにするべきか、というコンセプトの部分を重点的にご提案したほうがいいのではないか。我々のチーム内でそんな話になって、レイアウトなしで臨むことになりました。
堤
結果的に、当時社長だった鈴木雅哉(現・株式会社MonotaRO 取締役兼代表執行役会長)が、NCMさんのコンセプトを気に入ってご一緒することになりました。決定後はまず、ご提案にあったワンフロアではない方がいいという点を折衝していったように思います。
沼尾
ええ、始めのうちは1.5フロアだとこうなる、2フロアだとこうなる……といったゾーニングプランでのスタディをかなり行ったと思います。結果的に2フロアと決まった後に、レイアウトを細かに詰めていきました。
山畑
いざプロジェクトが走り出し、移転まで見越すとスケジュールはかなりタイトでした。決めなければならないことは多いけれど、かといって、お客様はもちろん、ディー・サインさんが設計の手を動かす時間も奪ってしまっては本末転倒です。
そこで我々プロジェクトマネジャー(PM)が、各部門ごとの会議に参加して情報を集約し、適切に設計者やお客様にお伝えするわけですが、今回はさらに、半年先くらいまでの会議をすべてセットしました。それぞれのミーティングで何を決めるといったことまでかなり細かく。タスクやスケジュールまではっきり見える化してほしいというご要望は、初めの段階で堤さんからいただきました。結果的にはそれが、スムーズにプロジェクトを進めていく一助になったかなと思っています。
新たな発見や融合を呼ぶ、「集まる」ことを促すしかけづくり
新オフィスのプランニングはどんな点を大切にされたのでしょうか。
沼尾
プロポーザル提案時から変わらず大切にし続けたコンセプトは、単なる“Work-Place(ワークプレイス)”をつくるのではなく“Work-Campus(ワークキャンパス)”をつくろうという点です。人、そしてアイデアが交わることで、セレンディピティが⽣まれやすい協創スペースとしたいと考えました。人の交わり方をどのようにデザインするか、そのためにはどのような場が理想的かをデザインに落とし込んでいきました。
山畑
プロジェクトが始まってすぐに、社長や役員の方々にインタビューを行い、また各部門にもヒアリングを実施しました。さらに当時のオフィス環境や働き⽅をデータ化し、本社オフィスのKPI を共有して。そうして「リアルに人と会う場としてのオフィス」という点に強い思いを抱かれていることが改めて見えてきました。ただ作業をする場というよりは、人と人が出会い、オフィスに行くと何か発見があったり、成長できたりする場を目指そう。 “キャンパスとしてのオフィス”はひとつの重要なキーワードでしたね。
堤
プロジェクトの進行中はコロナ禍でした。同じ状況がずっと続くわけではないけれど、リモートワークが一般化したことで、だからこそ行く意味があるオフィスにしないと、とは考えていましたね。オンラインではなく、あえて出社して、顔を合わせてミーティングしたりアイデアを出し合ったりすることに価値がならなくてはいけない。そういう意味で、少し先の未来を見越したプランニングをご提案いただいたと思います。
沼尾
オフィスはJPタワー大阪の21階と22階の2フロア。22階には全員が自由に使えるカフェを、21階にはラウンジを設けて内階段でつないでいます。ただ、大きなカフェやラウンジだけをつくっても、そこへと促していく有効な動線がないと上手く使ってもらえないだろうと考えました。
そこでオフィス内のメイン動線のあちこちに、社員同士が出会っておしゃべりしたり、くつろいだりと様々な形のコラボレーションできる“Pocket(ポケット)”を点在させています。自然発生的な人の“たまり”がラウンジやカフェへとつながっていく仕掛けです。また、それらの部分は特に居心地を重視して、木や緑などデザインのテーマである自然を感じさせる素材選定を行いました。
優れたデザイン性とコストメリットを両立する、ワンストップによるマネジメントサービス
山畑
堤さんたちお客様の思いを、沼尾さんたち設計者が図面に落とし込んでいく。一方で私たちPMは、お客様からスケジュールとコストもお預かりしていますから、心を鬼にする場面もありました。ただ私の中では、プロジェクトマネジメントとは “デザインマネジメント”だとも思っています。お客様からのご要望に沿ったデザインには、当然それに見合うお金がかかる。コストカットばかりが優先になって、デザインのクオリティまで落ちるようなことがあれば、お客様のご要望に応えたことにならないと思うのです。それでは結果的に誰も得をしません。
私たちNCMの強みのひとつは、社内にコストチーム、設備チームなど、建設に関わる各部門のプロフェッショナルが揃っていて、必要な作業をワンストップで迅速かつ精度高く行える点です。今回は、ディー・サインさんから上がってきた図面について、NCM社内のコストチームの協力を得て概算コストを算出し、見直すべきところとそうでないところの見極めを行なっていくことができました。プロジェクトに一丸となっている全員の思いをいちばんいい形で実現するために、どのように歩み寄ればいいかという、PMとして大切にしているところに積極的に取り組めたかなと思っています。
堤
確かにプロジェクトが進むにつれ、お任せしておけばお互いの“いい塩梅”を見つけてくださるようになっていったと思います。
沼尾
オフィス面積が広い分、たとえばダウンライト1つの価格を決めるといった小さなことでも、全体コストが大きく変わってきてしまいます。そういった点までNCMさんからご提案をいただけたのはありがたかったですね。ただし設計者として、ここはコンセプトに関わるから譲れないというラインはある。これを変えてしまうと、目指すものが崩れてしまう、といったラインですね。山畑さんはそこの理解が深く、すり合わせの作業をかなり丁寧に一緒にやっていただきました。
そして、お客さんの側と密接につながりながら、オフィスをどのように運営するのかというソフト面や、MonotaROさんにとってとても重要なICTの部分・設備などについての要件を引き出し、伝えてくださったのは、設計者としてもとても助かりました。
ご苦労なさった点、3者がピリリとした局面などありますか?
堤
それはやはり予算のところですかね(笑)
山畑
実は、目標としてMonotaROさんからいただいた坪単価が、当初我々が弾いていたコストよりかなり低かったのです。最近の資材高騰や人手不足もあり、特にスペックを高くしなくても、下手をすれば目標予算の2倍くらいにはなってしまう。正直なところ、どうなるかなと懸念がなかったわけではないんです。でも、クライアントである堤さんを含めたチームの間を細かに行き来し、調整に調整を重ねていったら、最終的にはいただいた目標金額を守ることができました。
振り返ると、私としても、目標コストを達成できたのが信じられないほどですが(笑)、チーム全員の努力の賜物だったと思います。ディー・サインさんはもちろんのこと、手前味噌ながら弊社内の設備チーム、コストチームもとても優秀で。たとえば、これはコスト面だけの話ではありませんが、ビル本体の竣⼯前A工事から入ることをビル側に承諾いただけたのも大きかったと思います。通常のオフィスビルでは、区画ごとに標準の電気容量の割当があり、オフィステナントがそこに手をつけることはほとんどありません。ですが今回のMonotaROさんのようにECの会社だったりすると、サーバーなどの設備が置かれる部分は絶対に大きな電力を使うんです。ビルが竣工した後のC工事だけで進めてしまうと、そこの部分に電力を補充するために発電機を入れて……といったことが発生して、簡単に億単位のお金がかかってしまう。そういった細かな、でも大きな違いを生むことを交渉できたのはありがたかったですね。
プロジェクトに関わる全員がそれぞれのプロフェッショナルを発揮して、専門的かつ細かなところでまで見てくれた。だからこそ、できあがる場のクオリティとコスト目標を両立することができたのだと思います。
互いのプロフェッショナルを発揮して作り上げた新オフィス
堤
以前のオフィスには、たとえば打ち合わせの場所が足りなかったり、設備が古かったりといった課題がありました。移転にあたり、NCMさんに細かな課題まで丁寧に拾い上げていただいた結果、新オフィスはそれらがすべて解決されました。明るくて広くて、居心地もいい。「出社したからこそできること」が明確になったと感じています。
カフェやラウンジは非常に好評ですよ。
沼尾
オフィスが広いので、ポケットなどの空間にもドリンクコーナーを点在させていいところなのですが、あえてカフェとラウンジのみに設けています。わざわざそこに行くことで偶発的な出会いがある。そこで面白い話が始まったりとコミュニケーションが誘発されることを期待しています。
最終的にプロジェクトの写真集を作られたとお聞きしました。
山畑
そうなんですよ。素人写真ですけれど、プロジェクトに携わった我々と設計者、そしてお客様、それから工事に関わった主要メンバーでお金を出し合いまして(笑)。さまざまなプロジェクトに携わってきて初めてのことでした。全員がプロとして誇りを持ちながら、お互いを尊重し合ってひとつのゴールを目指せたからこそだなと、今だに懐かしく、ありがたく思い起こしています。会議を細かにスケジューリングしたことは最初にお話ししましたが、それでもずいぶんな回数お会いしましたからね!
優秀な設計者だと、PM的役割まで担える方は多い。だからこそ私は、PMならではの役割を常に意識して先へ先へと動けるようにしたいと思っています。今回はお客様のご理解もあって、沼尾さんたち設計者、そして我々PMが、密度高く互いのいいところを出し切れたのではないかと思っています。本日はありがとうございました。
沼尾
決起集会を開催した写真も載っていますね(笑)。言いたいことを言い合えるいいチームだったなあと思います。大規模なプロジェクトながら、ガラスパーテーションのスモークフィルムの貼り方や「MONO CAFE」のサインなど、1/1でモックアップをいくつも制作して、細かなところまで関係するメンバー全員で確認を行いました。
どのシーンも懐かしいです。本日はありがとうございました。
堤
工期・予算を守って移転まで完了できたこと、よく尽力いただいたと思います。ありがとうございます。現在このオフィスで働いているのは700人程度。当初の想定よりは人数増のスピードは少しゆっくりとしていますが、だんだんと増えていきます。 集まって価値を生む場としてのワークプレイスを、これからさらに生かしていきたいなあと思いますね。
カフェやラウンジもそうですけれど、社内のさまざまな場所に配置された “ポケット”は、もっといろんな面白い使い方ができそうだなと可能性を感じているんです。今後ともよろしくお願いいたします。
■プロジェクト概要
名 称:MonotaRO本社オフィス
事業会社:株式会社MonotaRO
設 計:株式会社ディー・サイン(基本設計)
施 工:株式会社丹青社(内装・造作家具)
株式会社オカムラ(間仕切)
住商インテリアインターナショナル株式会社(既製家具)
東通産業株式会社(ICT)
P M:日建設計コンストラクション・マネジメント
規 模:約8,000㎡(改修面積)
構 造:S造・SRC造・RC造(制振構造、免震構造)
21・22階の2フロア(建物全体 地下3階、地上39階)
記事編集制作:原稿執筆 阿久根 佐和子/Photo 斉藤 大介(ギングリッチ)
※掲載内容は2024年5月時点のものです。
MEMBER’S VOICE
MonotaRO様から本社移転のプロジェクトのお話を頂戴しましたのが、2021年の夏。
世の中はコロナ禍によって、人と人との「コミュニケーション」が分断され、それまでのオフィスの作り方が根本から変わるといった、先行きが見えない時期にスタートしたプロジェクトでした。
そのような時期であっても、MonotaRO様はじめ、全てのプロジェクトメンバーがオフィスでもっとも大切なものは「コミュニケーション」であることを信じて進めてきました。
プロジェクトに関わった大勢のメンバーの「コミュニケーション力」が結集し、人と人が出会って語らう新たな時代のオフィスが出来上がったのではないかと思います。
ディレクター/谷口 幸雄
MonotaRO本社オフィス移転プロジェクトは、NCMにとってもチャレンジングな試みが多いプロジェクトでした。
外部デザイン会社とのコラボレーション、建設中のビル竣工と同時にオフィス移転完了、優れたデザイン性とコストメリットの両立等、成功の秘訣は、プロジェクト関係者全員が素敵なオフィスを創ることを目標に、一致団結できたからだと思います。
本プロジェクトで得たチームワークやナレッジを活用し、今後もMonotaRO様の未来に携わることができましたら幸いです。
アソシエイト/山畑 毅