BOAT RACE大村への太陽光発電設備導入のサポート
地域貢献という付加価値を提案

大村市ボートレース企業局×日建設計コンストラクション・マネジメント

(右)馬場宏幸氏 (大村市モーターボート競走事業管理者)
(左)竹原由香里 (NCMマネジメント・コンサルティング部門シニアディレクター)

長崎県大村市、長崎空港からほど近い大村湾の最奥部に位置する大村市モーターボート競走場(以下、BOAT RACE大村)。1952年4月6日に全国で初めてモーターボート競走を開催した発祥の地として知られています。
ボートレース業界ではカーボンニュートラルの取り組みの一環として、全国のボートレース場への太陽光発電設備導入を進めています。BOAT RACE振興会では再生エネルギー導入の取り組みを加速させる施策を企画し、その第1号としてBOAT RACE大村での取り組みが2025年1月に竣工しました。
日建設計コンストラクション・マネジメント(以下、NCM)は、太陽光発電設備導入にあたり、まずトライアルとして数拠点のボートレース場について特性や状況を鑑みながら、基本計画策定から事業計画策定、設置業者の選定、仮設・施工計画の策定等、幅広いサポートを行っています。
今回、BOAT RACE大村での取り組みについて、主催する大村市モーターボート競走事業管理者の馬場宏幸様に、当社マネジメント・コンサルティング部門シニアディレクターの竹原由香里がお話を伺いました。(以下敬称略)

競走水面とスタンド棟を見る。

ボートレース発祥の地として、いちばん最初にカーボンニュートラルへ取り組む

NCM・竹原由香里(以下、竹原)
最初に業務の前提からお話しします。地球温暖化の原因となる二酸化炭素の排出ゼロを目指すカーボンニュートラルの取り組みの一環として、全国のボートレース場への太陽光発電設備導入を検討されていました。そこで、全国のボートレース場への太陽光発電設備等の設置計画に伴う発注者支援業務として、BOAT RACE振興会より2022年にプロポーザルが実施されました。太陽光発電に関する高いノウハウや設計・施工から運用に至るまでの幅広い支援体制等が評価され、当社が選定されました。
本業務では太陽光発電設備設置を促す仕組みの構築が求められ、まず3つのボートレース場でのトライアルを実施し、そこでどのようなスキームがよりスピード感をもって太陽光発電設備の設置を実現できるかを検証し、ゆくゆくは全国24場すべてのボートレース場に太陽光発電を設置したいという目標がありました。いちばん最初にトライアルへの参加に手を挙げたのがBOAT RACE大村でした。
大村市では、2023年2月24日に「ゼロカーボンシティ」を宣言される等、これまでさまざまな環境に対する施策に取り組まれていますが、今回太陽光発電設備設置を決められた経緯にはそういった背景もあるのでしょうか?

大村市モーターボート競走事業管理者・馬場宏幸(以下、馬場)
はい、ひとつにはその意識がありました。今国内外でさまざまな気象災害が発生しており、自然生態系や農林水産業、健康や産業経済活動等へさまざまな影響が出てくると指摘されています。将来の世代も安心して暮らしていける持続可能な社会をつくるため、脱炭素社会の実現に向けて誰もがどんな主体でも取り組んでいく必要があります。われわれは大村市の公営企業なので、自治体としても企業としても、カーボンニュートラルに取り組むという社会的責任を果たす使命があると考えました。

また、BOAT RACE大村はボートレース発祥の地であり、敗戦後日本の社会全体が疲弊していた中、国民の娯楽になり地方財政の再建にも貢献できる公営競技が日本の復興に繋がると考えていた先人たちの想いを引き継ぎ、カーボンニュートラルに先陣を切って取り組み、ボートレース業界の発展の一翼を担いたいという想いもあり、今回のトライアルにいちばん最初に手を挙げさせてもらいました。

スタンド棟2階ビューイングデッキから見る。

既存建物の構造やデザインを鑑み、最適な太陽光パネルの設置箇所を細かく検討

馬場
今回BOAT RACE大村では、スタンド棟の一部、外向発売所、ボルダリング施設、艇庫(電力は選手宿舎へ供給)の屋根上と、第一駐車場、第二駐車場の一部にカーポート型として、さまざまな箇所へ分散配置することで太陽光パネルを合計1,172枚設置しました。発電電力量の合計は480.79kWh、想定される年間の発電量は約51万kWh/年で、これは一般家庭の約120世帯分が年間に使用する電力量*に相当します。
*一般家庭の年間使用電力量を4,200kWh/年と試算した場合。

竹原
計画当初は、大屋根全体に太陽光パネルを載せたいという要望もありましたね。

馬場
そうですね。われわれの最初のイメージはスタンド棟の大屋根全面に太陽光パネルを設置できれば、広い面積が取れますし、アピールという点でも分かりやすいのでよいのではないかと考えていました。

太陽光パネルはスタンド棟の一部、外向発売所、ボルダリング施設、艇庫の屋根上と、第一駐車場、第二駐車場の一部にカーポート型として設置。その他にBCP時の電源強化や蓄電池の設置を行った。総工費は8億4362万3000円。

竹原
その想定をお聞きした上で現地調査をさせていただいたところ、既存建物の構造荷重条件や屋根のメンテナンス等の状況を鑑みると、太陽光パネルを載せるには厳しいことが分かりました。当社では太陽光パネルの設置場所については多角的に検証を行います。屋根面や壁面への全面設置は発電量と来場者へのアピールを考えると最適ですが、既存建物の構造やデザイン性が障壁となることが多くあります。BOAT RACE大村も既存建物は太陽光パネルのような重量物を載せる構造計画となっていないことや防水性能への影響等安全の確保を考えると難しい、ということを助言させていただきました。そこで、可能な範囲で最大限の太陽光パネルを設置できるよう、議論をさせていただきました。

大屋根全面への設置を断念したことに関しては、もしかすると少しがっかりされたかもしれませんが、これまで、太陽光パネルを設置するには大きな面積を確保する必要があるという意識が強く、都市型のレース場等は諦めていたところ、BOAT RACE大村のように設置個所数を分けての設置が可能で、また分散配置をすることにより工事の際の停電やメンテナンスをエリアごとに実施できるメリットを提示できたのではないかと思います。

馬場
われわれはこれまで太陽光発電設備を大規模に導入するという経験がなかったのですが、NCMの知見をいろいろお聞きして、大屋根全面への設置は難しいということは理解しましたし、じゃあどうしようかということで、新たにカーポート型の太陽光パネルの提案をいただいたり、ボルダリング施設や艇庫の屋根等、細かな建物への設置まで検討され、これが結果しっかりと費用に見合った配置計画となり、また想定以上のBCP対策の強化等にも繋がり非常によかったなと感じています。

太陽光発電による電力を災害時にも利用するBCP計画

竹原
ボートレース場はビルディングタイプとしては少し特殊で、施設がフル稼働しているのは1年のうち約半分になります。例えば商業施設は1年間ほぼフルで稼働していますし、オフィスや学校は週7日のうち5日ですが電力利用のピークと発電のピークが一致していますよね。太陽光発電設備を導入する場合、多くは発電した電力をいかに効率的に使い切るかという目線で設置設備容量の設定を検討しますが、ボートレース場ではレースの開催日と非開催日での使用量が大きく異なる中でコスト等をふまえて発電電力の利用方針をしっかり検討することが重要でした。

また、ボートレース場ごとに異なる開催時間(モーニング/デイ/ナイター)も考慮が必要です。発電電力の利用方針の選択は基本計画やコストに大きな影響を与えるため、NCMでは関係者と密接なコミュニケーションをとりながら目標を共有し、初期段階で最適な運用方法をご提案できるようサポートしています。
今回BOAT RACE大村では、太陽光発電による再生可能エネルギーの電力を通常時だけでなく、災害時にも電力供給源として利用するBCP対策との組み合わせの計画としています。BCP対策を重視された経緯についてお聞かせいただけますか。

2022年 台風14号接近の際に避難所として開放。

馬場
2020年7月に発生した豪雨の際、BOAT RACE大村では特別観覧席を一般の方の避難場所として、イベントホールをペット同伴の避難場所として開放しました。通常時はレースを開催していますので、避難所として指定することは難しいのですが、災害時に臨時で補完的な施設としては市民の方に十分に活用いただけるだろうと考え、そのために必要な発電容量等の設定を検討していきました。レースを開催していない時、中止となった時等の条件はありますが、できるだけレース場を市民の方に開放していきたいという想いがあり、何かあればここに来れば安心だという場所になれば、社会貢献、地域貢献に繋がっていけると考えました。
また、敷地内に選手宿舎があり、食堂や浴場、宿泊室の機能がありレース中は選手の生活の場となりますが、ここも災害が長期化した場合に開放して、体調不良者や負傷者が横になって休むなどの対応ができる施設となります。

竹原
一時避難所というのは、自治体による努力義務によるところが大きく今ようやく国が実態調査に動きが出てきたところなのです。そんな状況下において災害に対してどこまで対応するかという上限がない中で、BOAT RACE大村では、地域住民に対して自分たちに何ができるかという視点で検討されていると感じました。
当初の当社からの提案は、指定場所を決めてそこに電源供給を行う方式でした。それが利便性を重視し追加でポータブルバッテリーの導入も採用されましたね。

馬場
前回避難所として使用した際に、特別観覧席を開放しましたが、その他のフロアで避難をされた方もいたので、そこには電源がなくてみなさん電気を使うことができませんでした。その経験から、可動できる電源があるとよいなと感じており、ポータブルバッテリーの導入を決めたのです。

竹原
スタンド棟に48kWhの蓄電池、選手宿舎に24kWhの災害時の太陽光発電設備連携の蓄電池設備の設置とは別に、今回利便性という視点で設計・施工を担当された九電工の提案で、ポータブルバッテリーを導入されました。建築の視点で考えると、建築設備として機能することを優先しがちなのですが、この視点は当社としても今回非常に勉強になりました。

馬場
また、電気自動車急速充電設備も2基設置しました。1基は来場者用として、もう1基は公用車として電気自動車を1台導入し、その駐車場へ設置しています。電気自動車からの給電方式についても、当初はV2Hという建物に電力を供給する方式でご提案いただいていたのですが、議論する中で可動性のあるV2Lという家電機器へ電力を供給できる方式のご提案をいただき、そちらの方が活用の幅が広がると考えて選択しました。電力としてはいずれも1基50kW、充電時間は約30分で80%まで充電が可能となっています。

電気自動車急速充電設備。

技術提案で評価する設計施工一体のプロポーザル方式

竹原
公共工事では通常設計と施工を分離して発注することが一般的ですが、太陽光発電設備の設置工事はシステムごとに特異性のある工事であり、設置業者の技術力が求められるため、今回は技術提案も考慮した上で選定する設計施工一括でのプロポーザル方式をご提案させていただきました。
NCMでは、入札に参加する会社のロングリストおよびショートリストの作成を行いました。また、工期短縮やVE(バリュー・エンジニアリング)提案によるコストダウン策などを提案書に盛り込み、NCMにて精査を実施。これにより、より優れた提案を行える技術力の高い会社の選定をサポートしました。その受注者を決める方式についてはいかがでしたか。

馬場
そうですね。おっしゃるように、通常設計と施工の分離発注が基本ですが、今回はNCMの提案もあり設計施工一括のプロポーザル方式での発注という判断をしました。昨今の建設市場の状況などの最新の情報の提供もあり、不調も珍しくない中で、選定が行えたことや、さきほど少し触れたように、九電工からポータブルバッテリーの提案をいただくなど、よりよい多くのアイデアのプレゼンテーションを受けることができ、今回のプロジェクトにマッチした方式だったと感じています。

竹原
複数の発注方式ごとのメリットやリスクについて時間をかけてご説明しプロジェクトにあった発注戦略をご提案しています。今は人手不足や物価上昇という社会状況から、入札の不調も多く、地域の建設市場の情報収集を行い入札条件を検討する必要があります。

太陽光発電設備の導入のアピールと付加価値創造をサポート

2025年2月12日に開催された竣工式典の様子。

竹原
本日は太陽光設備設置事業の竣工式典と内覧会を開催され、大村市長をはじめボートレース関係者や国土交通省の職員の方等が多数参加されました。また、他のボートレース場の施行者の方もたくさんいらっしゃっていましたね。プロジェクトの推進の中で災害時に市民の方に利用いただくには日頃から市民の方々に認知されていることが重要とアドバイスさせていただきました。
今後、太陽光発電設備の導入をどのようにアピールされていきたいですか。

馬場
市民の方へのアピールとしては、太陽光発電設備の導入が脱炭素社会への取り組みの一環となっていることを案内するサイネージを、スタンド棟や外向発売所の屋外部分に設置しました。サイネージでは太陽光発電設備の発電電力量やCO₂削減量等の情報が紹介されています。停電となっても蓄電した電力で数日間は電力を賄えるし、天気がよければ太陽光発電でずっと電力を供給できるので、災害時にもBOAT RACE大村を活用できる安心感を市民のみなさんにお伝えしていきたいと考えています。

発電電力もリアルタイムで表示。現在の消費電力を太陽光発電で賄った割合が多いほど、画面右下のボートの数が増える。

BOAT RACE大村ではレース開催以外でも本施設を活用し、さまざまなイベントを開催して集客し市民の方に還元したり、2022年には敷地内に「コミュニティパーク グルーンおおむら」という子どもが安心して遊べる施設や、スケートボードパーク、ボルダリング施設を設け、気軽に立ち寄れるような地域に根ざした施設として地域創生の一躍を担うことを模索しながら運営しています。

カーボンニュートラルへの取り組みの姿勢も周知して、市民のみなさんひとりひとりが持続可能な社会の実現について自分ごととして考えるきっかけを提供していきたいです。大村市の「ゼロカーボンシティ」宣言の推進に貢献するとともに、ボートレース業界全体のカーボンニュートラル実現に向けた取り組みも推進できればと考えております。

BOAT RACE大村の敷地内に設置されている「コミュニティパーク グルーンおおむら」。

竹原
太陽光発電設備の発電電力量やCO₂削減量等のサイネージに表示している以外にもさまざまなデータを蓄積していて、これから大村市内の他の公共施設に太陽光発電設備を導入する際にも活用いただけると考えています。

馬場
ボートレース業界で言うと、ボートの燃料をバイオエタノール30%配合に変える予定で取り組みを進めています。これにより、従来使用していたレギュラーガソリンと比較して、約12~15%のCO2排出量の削減が見込まれます。ボートレースの電動化についても検討しており、カーボンニュートラルへの意識はどんどん高まっていくでしょう。

竹原
BOAT RACE大村では太陽光発電設備の導入に対して、施行者である大村市ボートレース企業局の地域に根ざしたボートレース場としたいという強い想いを受け、BCP対策を組み合わせることで地域貢献という付加価値をプラスした提案ができたと思います。これから順次進められていく他のボートレース場でも、それぞれの立地や施設特性に適した提案で、再生可能エネルギーの導入によるランニングコストの削減、施設のイメージアップ、カーボンニュートラルへの意識強化等を超えた、価値創造のお手伝いができればと思います。

■プロジェクト概要
名  称:BOAT RACE大村太陽光発電設備プロジェクト
事業会社:大村市・BOATRACE振興会
設  計:株式会社 九電工
施  工:株式会社 九電工
P   M:日建設計コンストラクション・マネジメント
規  模:約27,704.83㎡
構  造:鉄骨造

記事編集制作:株式会社新建築社/Photo:髙橋菜生

※掲載内容は2025年5月時点のものです。