自分たちのモノづくりの現場を、自分たちでつくる。
稼働約半世紀を経て取り組んだ新工場プロジェクト。

中野製薬製造 × 日建設計コンストラクション・マネジメント

中野製薬製造株式会社 生産本部長 中島 康雄さん(左から3人目)、ゼネラルマネージャー 福本 行寿さん(同4人目)、山口英一さん(右)、矢津田 翔伍(左)さん、NCM マネジメント・コンサルティング部門ディレクター 松嶋 治朗(右から2人目)、同アソシエイト 繁田 いづみ(左から2人目)。

ヘアカラー剤やパーマ剤、ヘアケアやスタイリング用のアイテムなど、頭髪化粧品の分野で、化粧品・医薬部外品を販売する中野製薬株式会社。高品質でイノベーティブなものづくりは広く知られ、ヘアムースやクリームで固めるスタイリングが主流だった1990年代に、“固める”と“伸びる”を両立した「ナカノのワックス」は発売から半年で20万個販売する大ヒットを記録しました。美容室専売商品でも同社のワックスが業界シェア第2位(富士経済「業務用化粧品市場の戦略分析2020」調べ)となるなど、一般からもプロからも高い支持を得るメーカーです。
1959年の創業時より京都市に本社を置く同社では、ほぼすべての製品を自社生産。その要を担うのが、2012年に同社から独立したグループ会社・中野製薬製造株式会社(以下:中野製薬製造)の草津工場です。滋賀県草津市の琵琶湖のほとりで水が美しく、本社からのアクセスのよいこの土地に、1973年に旧工場が作られると、以来多くの“ナカノ”ブランドのアイテムがここで作られてきました。
その工場が、建設から約半世紀を経て建て替えに。2019年の決断から、約5年の月日を経て2024年4月に竣工しました。日建設計コンストラクション・マネジメント(以下:NCM)が、この新築工事のプロジェクトマネジメントを手がけています。
プロジェクトは折からのコロナ禍の真っ只中。プロジェクト関係者が新しい働き方を模索する必要に駆られ、建設コストが跳ね上がり、一筋縄ではいかないことの連続でもありました。
この新築工事のプロジェクトに携わった同社生産本部長の中島 康雄さん、ゼネラルマネージャーの福本 行寿さん、山口 英一さん、矢津田 翔伍さんと、NCM マネジメント・コンサルティング部門ディレクターの松嶋 治朗、同アソシエイトの繁田 いづみの5人で、約5年がかりのプロジェクトを振り返ります。

新工場外観。エントランスから緩やかな坂を上がって建物前を通って右奥の入口や駐車場へ至る動線で、建物をじっくりと堪能できる。ガラス越しに1階の食堂やエントランスホールが見える。

「新しい工場」に求めるものを、自分たちの中から探りあてる。

まずはどのような経緯で新工場の建設に着手したか、そしてそのパートナーにNCMをご指名なさった理由などをお話しいただけますか。

中野製薬製造 中島 康雄(以下中島) 
プロジェクト自体の決定は2019年の末だったと思います。大元をたどれば、今から15年ほど前でしょうか、旧工場の稼働40年が見えてきた頃に、実は一度新工場建設のプロジェクトが動いたことがあるんです。ところが、東京オリンピック開催前で工事費が急騰するなどの事情があり、そのままペンディングになりました。それからしばらく過ぎ、いよいよ稼働50年が見えてきて、改めて私どもの会長の中野 耕太郎から話がありました。
旧工場建設当時から将来的な増産を見込んで隣地を取得していたため、この土地を候補地として新工場建設プロジェクトがスタートしました。

中野製薬製造 山口 英一(以下山口) 
ちょうど同じタイミングで、私も弊社会長と話をする機会があったんです。そこでそういう規模のものを建てるならばどうやらCM会社を入れた方がいいらしいです、とお話しをさせていただいたのを覚えています。

中野製薬製造 福本 行寿(以下福本) 
そうでしたね。でもCM会社と言葉では言うものの、それが何を意味するのかは、私たちはわかっていませんでした(笑) どうやら工事にまつわるコンサルタントみたいなものらしいけれども、なんというか、高い位置からご指導されるんじゃないかな、その人たちに引っ張られて、我々モノづくりの人間の思いが伝わらないままに、コンサルタント目線で工場ができてしまわないかな? というのは少し心配もありました。

山口
でもともかく聞いてみようかと。福本と私が伝手もなくコンタクトをとりました。

福本
NCMさんに最初にお電話したのは私です。ホームページから見て会社の代表番号にお電話をかけて「工場建てたいんですけど」と(笑)。すぐにお繋ぎいただいて、その後現場の業務責任者になってくださった清藤さん(現NCM取締役副社長)が弊社にお越しくださいました。

中島
その後NCMさんに決定したのですが、我々は「そもそも工場を建てるって何をしたらいいんでしょう?」という感じ。特にビジョンもないわけです。

福本
私たちがあまりにも何もわかっていなくて驚かれたんじゃないでしょうか。NCMさんから、どうしていきたいかを考え、決めていくのはCM会社ではなく、皆さん方施主自身なんですと言われてはっとしました。

NCM 松嶋 治朗(以下松嶋) 
驚いたなんてことはないですよ(笑)! 私どもで受注した後は、まずは皆さんと新工場に関するワークショップを行いました。プロジェクトチーム以外にも各部署から人を出していただいた15人を4チームに分け、それぞれのチームにも私たちがモデレーターとして入る。そうやってコンセプトを練り上げていきました。

山口
設計者の設定はプロポーザル方式になる。そのための“要項書”というものが必要なことも、それを自分たちでつくっていくのだということも、その際に初めて知りました。ワークショップやミーティングを通じて、今の会社や工場に対する思い、ここからどうしていきたいかという思いがまとまっていくのは、とても面白いプロセスでした。

4つのコンセプトに収束した、新工場のグランドデザイン。

中島
結果的に、新工場が満たすべき4つの基本コンセプトが出来上がりました。

① ISO22716(化粧品GMP)認証を取得すること
化粧品GMP(Good Manufacturing Practice)は、化粧品の製造工程における品質管理と安全性を確保するための基準です。製品の一貫した品質を維持し、消費者に安全な化粧品を提供するために定められた規則や手順を指します。旧工場から刷新して、よりクリーンで安全なモノづくりに取り組みたいという思いです。

② 人と機械の融合による最適化
我々の工場は、とても高い技術を持った職人さんが働く職場です。その職人技は私たちの個性だし、それを置きざりにするのは違うだろうと強く思っていました。そこで人間の仕事を機械がとって変わるのではなく、機械がサポートすることで、生産量2倍を目指せるような場づくりをと考えたのです。

③ 将来を見据えた拡張性の高い計画
我々はほとんどの商品を自社生産していますが、それは業界的に見てもけっこう珍しいこと。化粧品業界は、流行にかなり左右されますから、売りのバランスも時流によって変わる。
だから自ずと少量多品種生産になっていきます。そういった変化に合わせてラインの組み換えなどが行いやすい、可変性の高い工場である必要がありました。

④ SDGs、環境配慮
現代の工場に欠かせない視点ですよね。同時に、働く従業員の環境もよりよいものとしたいと考えました。

中野製薬製造 矢津田 翔伍(以下矢津田) 
ワークショップなどを経て自分たちの中で意識統一を図りながら考え出したものだけあって、この4本柱はすっと自分たちの腑に落ちるものになりました。

NCM 繁田 いづみ(以下繁田)
ワークショップから1~2ヶ月後くらいでしたか、コロナ禍で緊急事態宣言が出ました。
ずっと対面で会議して、ようやく中野製薬製造さんと弊社との間で絆が出来上がってきた頃に、いきなりオンラインに移行して。まだオンラインでの会議に慣れず、会議が途中で切れたり(笑)、なかなかもどかしい思いもしました。

プロポーザルを経て、設計・施工ともに大成建設になったのですね。

中島
設計施工の分離発注、一括発注に関しては、NCMさんがさまざまな側面からメリットとデメリットを整理してくださいました。結果的にゼネコンさんの総合力・技術力を発揮していただける一括発注を採用し、プロポーザルで設計・施工先を決定しました。

福本
自分たちでプロポーザルの開催主体となり、コロナ禍での現場説明会や、審査も行いましたね。

新工場の隣の敷地に建つ、今は使われなくなった旧工場。平屋建ての思想は、新工場にも生きている。また外壁のレンガを新工場のエントランスに取り入れた。

繁田
プロポーザルを経て基本設計が仕上がるまでは、ほぼ毎週、中野製薬製造さんの会議室で会議をしましたね。
その後を思えばあの時はとてもハッピーな時代でしたね……。基本設計のアップが2021年9月。実はそこから、コスト協議の期間が1年ほどもかかりました。

矢津田
プロジェクト自体なくなってしまうのでは……というところまで行きましたもんね。

職人技の生きたものづくりを行ってきた旧工場。新工場では従業員の負荷を低減する自動化設備なども投入し、「人と機械の融合によって生産量を2倍にする」ことを目標に生産スペースのプランニングが行われた。

“人と機械の融合”を象徴するような設備のひとつが、高さ30mの自動倉庫。24時間無人稼働するこの倉庫によって、人的負担が軽減されるとともに、在庫管理の精度も向上している。
(写真提供:中野製薬株式会社)

排水処理技術や、環境負荷の少ない素材を採用するなど、サステナブルな施設を追求。業界で初めてCASBEE(建物の環境総合性能評価システム)のSランク認証を取得した。また、化粧品の製造・品質管理の国際規格ISO22716の認証も取得している。
(写真提供:中野製薬株式会社)

約1年間にわたるコスト協議での足踏みを経て、クオリティの高い新工場へ。

松嶋
プロポーザルで提示される見積もりは、とても重要なものです。折からのコロナ禍、ロシアのウクライナへの軍事侵攻のあおりを受けての物価高など、物価高騰の要因の多い時期だったことはもちろん理解していますが、設計段階を経て再提示された見積は、物価高騰を考慮してもプロポーザルでご提案いただいた金額とかけ離れており、かつその上昇分をクライアントへ説明できるものではなかった。そこを調整していく期間がとても長くなってしまったのです。

山口
あまりに決着がつかないものですから、一度松嶋さんたちに「当社の今回のプロジェクトってそんなにややこしい案件ですか」とお聞きしたこともありました(笑)

松嶋
もちろんそんなことはないですし、あんな長期にわたるコスト協議は私たちとしても初めて。折り合いどころを探りに探りました。

福本
正直なところ、誰もが譲れないぞという緊迫の局面が続いたのです。そんななかでも、NCMのお二人は、諦めることなく、根気強く私たちをサポートしてくださった。

松嶋
今回は結果的に、コスト協議において顧客の側に立ったかたちになりましたが、CMの役割はもちろんそれだけではないんです。適正な価格、適正なスケジュールで建築プロジェクトが進んでいくために調整を行うのが私たちの仕事。デザインについて協議を行うこともあれば、機能や設備面でよりよい最適解を探ることもあります。その際に、施主の側を説得するようなかたちになることだってあるのです。今回も、実際に折り合いのついたところで、中野製薬製造さんにある程度のコスト上昇分をご了承いただきました。

繁田
とはいえ、コスト面がようやく着地を迎えた後はスムーズに実施設計、施工と進んでいきました。特に、意匠設計のご担当には終始、とても頑張っていただきました。
本来なら家具は別発注になるケースが多いのですが、このプロジェクトではその担当者が全体を見てコーディネートしてくれたり、主要な家具はデザインしてくださったり。

中島
外観を象徴する、不規則に穴の空いたファサードのモチーフは、滋賀県の名産でもある「葦簀(よしず)」。ほかにも信楽焼や近江ちぢみなど、地場産の素材を採用しています。
意匠設計のご担当が、とても熱心に休みなどまで利用して生産地を回ったりしてらしたようです。前年度に竣工した代表的な設計施工作品を紹介する展覧会にも選ばれたそうです。

コンストラクション・マネジメントとは、伴走者であり、伴奏者。

イレギュラーに起こったさまざまな局面を乗り越えての新工場プロジェクトだったのですね。プロジェクトにCM会社を入れたことを、今、どのように総括されますか?

福本
優れた“伴奏者”だなと思います。始めは一緒に横を走ってくれる“伴走者”と思っていましたが“伴奏者”の方が近い! 我々施主サイドは気持ちよく歌を歌いたいんです(笑)。多少音程が外れたとしても、NCMの皆さんがいい伴奏でカバーしてくださいました。

山口
NCMさんがいらっしゃらなかったら、新工場は完成しなかったでしょうね。始めに福本が言った通りに、私たちはCM会社さんて、“こんな感じの工場はどうですか?”と言ってくるのかと思っていたところがある。待ちの状態というのか。でも松嶋さん、繁田さんは全く逆で、「いや違うんです、それを作り上げるのはあなた方です」と、私たちの考えを引き出して要項書をまとめるサポートをしてくださった。この新工場は、間違いなくあれがベースになって立ち上がっていますから、NCMさんの助けなしには到底たどり着けないものが出来上がったなあと思います。

中島
実際に工場が出来上がって、新しい食堂が眺めのいい場所になったでしょう?
旧工場では、とにかく食堂に一番乗りでやってきて、たらふく食べるみたいな現場のおっちゃんたちが、窓際の素敵な席に座るんですよ(笑)。ああいう席は女性が座るものだというような先入観を持っていたけど、違いました!

矢津田
そういう話でいうと、休憩時間になると、ファサードからの日差しが入る2階まで従業員が上がってきてベンチに座ったりするのを見ているとうれしいですね。それまではいい休憩場所がなくて車で休憩していたりしたのが、時間を過ごしたいと思ってもらえる場を作れたんだなあと。

福本
私は車で通勤するときに、正門からスロープを上がって、建物の前を過ぎて駐車場へ行く動線が好きですね。「ああいいところで働いているなあ」なんて思いながら入っていく感じがあります。プロジェクトの立ち上がりから、工場機能の完全移転まで5~6年がかり。サラリーマン人生でこのような経験はなかなかできないことで、やっぱりうれしいですよね。建物の中でも、「ここのこの部分は自分がこだわって提案したところだ!」というのがあって、いつまでも思い入れを感じたり(笑)。よく家を新築すると次を建てたくなるなんて言いますけれど、新工場が完成したあとに、山口と、「もう一回やれたなら…」なんて話をしました。

山口
そうですね、プロジェクト自体がすごくいい思い出といいますか、愛着深い建物が出来上がりました。

福本
CM会社の仕事って、失礼ながら、たとえば友人やご家族に「どんな仕事なの?」と聞かれたときになかなか説明しづらいものだと思うんです。たとえば私たちでしたら化粧品の工場で働いています、といえばすぐに理解いただけるのだけれど。公共工事などではCM会社を入れることは一般的になりつつあるとも聞きますが、我々のような一般企業がお付き合いするにはなかなか扉が開けづらい。でも今回、数年にわたってお付き合いし、いろんなことを教えていただいたりしたうえで、これは絶対、一般企業も扉を開けた方がいいぞと強く思います。

山口
我々は何も知らなかったから気軽にドアを開けたけれど(笑)、一企業が訪ねていって取り合ってもらえるのかな? と思ったりするのかもしれないですね。福本がはじめに、CM会社さんを入れると、高い位置から指導されてしまうのではないかと思ったと話しましたがそれはまるで杞憂で。プロジェクトを通じて、想像以上に頼りになるパートナーでした。施主の意見や要望を引き出しながら、建物をよりよいものとするために尽力してくださったからこその、この建物だと思います。

福本
本当、NCMさんとのお付き合いは、“しがめばしがむほど”いい味が出た、という感じ(笑)! “しがむ”って関西弁ですかね……。私たちはしがみ尽くした感じですけれど、お付き合いすればするほど、いい。そんな風に思います。

松嶋・繁田
そんな風に言っていただけると光栄です。本日はありがとうございました。

中島・福本・山口・矢津田
こちらこそありがとうございました!

■プロジェクト概要
名  称:中野製薬 草津工場
事業会社:株式会社NAKANOホールディングス
設計・施工:大成建設株式会社
C   M:日建設計コンストラクション・マネジメント
規  模:約8,500㎡
構  造:S造 地上2階

記事編集制作:原稿執筆 阿久根 佐和子/Photo 斉藤 大介(ギングリッチ)

※掲載内容は2025年時点のものです。

MEMBER’S VOICE

2020年の年明けからスタートしてから5年弱、ようやく竣工を迎えることができました。
モノづくりを大切にされる中野製薬製造様に我々CMrを認めていただくことから始まり、物価上昇の影響を受けてのコスト協議等々、常に挑み続けたプロジェクトでした。
言い尽くせないほどの紆余曲折を経ましたが、結果的には設計施工者も含めプロジェクト関係者が一致団結してつくり上げた建築物となったと思います。そんな新工場が大切に使われることを知り、中野製薬製造様の想いにこたえることができたのかなと感じています。

ディレクター/松嶋 治朗

基本計画開始時には約3年のプロジェクト期間が予定されていましたが、結果として5年近くかかる長期プロジェクトとなりました。その間、COVID-19や世界情勢による物価上昇などの外的な影響を大きく受け、私たちNCMにとっても挑戦のプロジェクトでした。
中野製薬製造様にとっては初めての試みであり、よりご苦労されたと思います。その中で、共に伴奏させていただき、共に泣いて笑って歌い切った(?)新工場は、ただの「ハコモノ」ではなく、沢山の方の想いが詰まった「居場所」となったと1年目検査の時に感じました。
新工場もどうぞ長くしがんでください。そしてまた違うフェーズで関わりたいと切に願います。

アソシエイト/繁田 いづみ

中野製薬 草津工場新工場建設プロジェクト |PROJECT

中野製薬 草津工場新工場建設プロジェクト

化粧品GMP取得と環境配慮型建築を実現した
頭髪化粧品新工場建設プロジェクト