ZEBとは? なぜ注目され、どのようなやメリットがあるのか

地球の温度上昇は、大雨、洪水、干ばつ、山火事などの被害を引き起こし、特に「グローバルサウス」と呼ばれる温暖地域の新興国や発展途上国に大きな影響を与えています。一方で、温暖化ガスを大量に排出する先進国の豊かさが増していく現状は、この問題の複雑性を示しています。
地球温暖化は「燃え盛る火事」に例えられることがあります。もし目の前に火事が起きれば、私たちは一生懸命に消火活動に取り組むでしょう。しかし地球温暖化は地球規模で広範囲かつ長期にわたるため、見えにくい問題となっています。しかし、大雨などの被害や貧富の格差の拡大は、私たちが直面している問題です。温暖化ガスの削減は火事と同じく、今すぐに対応しなければならない問題です。
この問題に取り組む一つの方法として、建設業界ではZEB(ゼブ/ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)が注目されています。今回は、このZEBの概要やメリット、デメリットについて解説します。

ZEB(ゼブ)とは

ZEBとは、「Net Zero Energy Building(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」の略で、省エネや創エネによって年間のエネルギー消費量を正味(ネット)でゼロにすることを目指した建物のことを指します。省エネやエネルギー負荷削減によってエネルギー使用量を減らすとともに、太陽光発電などの創エネによって建物で使用するエネルギーを生成することで、年間のエネルギー消費量をネットでゼロを目指します。
ZEBの建物は、4段階に定義され、エネルギー消費量削減の達成状況に応じて分類されています。ここではZEBの達成度が高い順に考え方をご紹介します。

1)ZEB(ゼブ | ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)

  • ZEBとは、年間のエネルギー消費量が正味ゼロまたはマイナスの建築物です。
  • 省エネ(50%以上)と創エネによって、100%以上のエネルギー消費量の削減を実現している建物です。

2)Nearly ZEB(ニアリー ゼブ | ニアリー・ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)

  • Nearly ZEBとは、ZEBに限りなく近い建築物として、ZEB Readyの要件を満たしつつ、再生可能エネルギーにより年間のエネルギー消費量をゼロに近付けた建築物です。
  • 省エネ(50%以上)と創エネによって、75%以上のエネルギー消費量の削減を実現している建物です。

3)ZEB Ready(ゼブ レディ | ネット・ゼロ・エネルギー・ビル・レディ)

  • ZEB Readyとは、ZEBを見据えた先進建築物として、外皮の高断熱化及び高効率な省エネルギー設備を備えた建築物です。
  • 省エネによって50%以上のエネルギー消費量の削減を実現している建物です。

4)ZEB Oriented(ゼブ オリエンテッド | ネット・ゼロ・エネルギー・ビル・オリエンテッド)

  • ZEB Orientedとは、ZEB Ready を見据えた建築物として、外皮の高性能化及び高効率な省エネルギー設備に加え、更なる省エネルギーの実現に向けた措置を講じた建築物です。

参考1:ZEBロードマップ検討委員会とりまとめ 経済産業省 資源エネルギー庁 

参考2:平成30年度 ZEB ロードマップフォローアップ委員会 とりまとめ 経済産業省 資源エネルギー庁

ZEBが注目される背景

ZEBは、地球温暖化問題への対策の一つとして注目されています。
日本では、2020年に「2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、すなわち2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことを宣言しました。
翌2021年の地球温暖化対策計画では、事務所ビル・商業施設などの『業務部門』に分類される建物において、CO2排出量を2013年度比で51%削減するといった目標が設定されました。加えて、ZEBの実現・普及に向けたロードマップが公表・策定され、ZEBの実現に向けた具体的な取り組みが示されました。
また日本の政府の建物・施設について「今後予定する新築事業については原則ZEB Oriented相当以上としつつ、 2030年度までに、新築建築物の平均でZEB Ready相当となることを目指す」としています。今後、地方公共団体でも同様の取り組みが期待されています。
世界的には、各国や地域がカーボンニュートラルを宣言し、エネルギー消費量の低減や気候変動対策への取り組みが活発化しています。ZEBはこのような持続可能な建物・都市開発の推進の一つとして期待されています。

ZEBのメリット

ZEBの建物は環境にやさしいだけでなく、さまざまなメリットがあります。今回はエネルギー、不動産、企業、建物利用者、自然災害の観点からメリットをご紹介します。

1)光熱費などのエネルギーコストの削減

ZEBへの取り組みにより、エネルギー消費量が削減され、建物の運用にかかるエネルギーコストを抑えることができます。
弊社の事例を基に一例をご紹介いたします。

  1. 省エネ・・・高性能断熱材、遮熱窓、庇・ブラインド、高効率空調、熱源設備や熱搬送設備の高効率化、高効率照明
  2. 創エネ・・・太陽光発電システム

2)不動産価値の向上・企業価値の向上

ESG投資などの環境に配慮した投資では、二酸化炭素(CO2)排出量の削減につながる省エネルギー化や再生可能エネルギーの活用など企業の環境配慮に関する取り組みが評価されています。また温暖化ガスの排出量が現時点で多い企業でも今後の低炭素や脱炭素に向けた取り組みが期待されている場合は投資を呼び込む機会が増えています。ZEBの建物を建設・所有することやテナントとして入居することは、その企業の環境に配慮した活動としての評価につながるだけでなく、企業イメージの向上やテナント誘致のしやすさにもつながります。
またZEBへの取り組みによって、環境に関する他の環境性能評価の認証の取得しやすさや高い評価の得やすさにもつながります。

3)快適性や生産性の向上

真夏の暑い日に、壁の断熱性が低い建物において、窓からの日射対策や室内での発熱対策などを行わない場合、人が室内にいられないほど暑くなります。空調設備の冷房を強く効かせれば、何とか過ごせるかもしれませんが、それは「エネルギー消費に頼った建物」となります。そしてエネルギー使用の増加によって二酸化炭素など温室効果ガスの増加につながります。また空調の冷風が強い場合は、不快に感じる方もいるかもしれません。
一方で、適切な日射対策や断熱材の利用(例えば、庇・ルーバー・壁面緑化、断熱・遮熱性能を有するガラスを利用)し、室内で発生する熱負荷を抑える対策(例えば、高効率照明器具の利用)をすると、冷房に必要なエネルギー使用を抑えることができ、環境負荷の低減にもつながります。これは地球環境にも「優しい建物」と言えるでしょう。さらに「エネルギー消費に頼った建物」よりも「優しい建物」の方が建物を利用する人々にとっても快適で、仕事もスムーズに進み、生産性の向上にもつながるでしょう。
ZEBはこの「優しい建物」を目指しています。その実現にはさまざまな方法があります。
我々の事例では、自然換気、自然採光、屋上緑化や壁面緑化、日射遮蔽、建物の外皮性能の向上、LED照明器具などの高効率照明設備、照明制御、高効率空調設備などがあります。

4)BCP対策(事業継続性)

ZEBの取り組みによって、創エネが可能な建物では、自然災害よって電力供給がない場合などでも発電が可能です。少ないエネルギーで運用が可能なため、建物機能の維持や企業活動も行いやすくなります。また建物外壁の高断熱化や日射熱の取得により、自然災害時に電力やガスが供給されない場合でも温熱環境の維持がしやすいです。
これらは、建物利用者が安心して利用できる建物になるだけでなく、事業継続計画(BCP)への取り組みとして企業価値や不動産価値の向上につながります。

ZEBのデメリットとその対策

ZEBへの取り組みは、環境負荷の低減や運用コスト削減など多くのメリットがある一方で、初期投資の負担や技術的制約など、一部デメリットも存在します。ここでは、ZEBの取り組みを考慮する際に注意が必要なポイントを紹介します。

1)建設コストの増額(初期投資費用の増額)

一般的に、ZEBに取り組んだ建物は、ZEBに取り組んでいない建物よりも省エネ設備や創エネ設備の導入や、建物の仕様を高めるなどによって建設コストが高くなる傾向があります。
そのため、建物に求める性能や仕様などを十分に整理しておくことや、建設コスト(イニシャルコスト)を抑えて建物の運用費(ランニングコスト)を低減できるのかを事前に試算することが大切です。

2)設備のメンテナンス・更新費用の確保

ZEBの取り組みによって一般的な建物よりも省エネ設備や創エネ設備などを導入した場合、メンテナンスや更新の費用がかかります。またメンテナンスや更新のタイミングが、ある年度や時期に集中する場合、他の年度と比較して予算が高額になる場合があるため注意が必要です。
そのため、省エネ設備や創エネ設備などのメンテンナンス・更新について、事前に中長期保全計画を作成することをお勧めします。

補助金制度・支援制度について

ZEBに関連する補助金事業や支援制度は、環境省や経済産業省、地方自治体などで行われています。内容は、新築または改修の建物に関する、省エネ対策にかかる費用の補助やZEB化の支援などです。時期によって公募の内容や締め切りが異なるため、早めに情報の確認や申請先に相談をすることが大切です。

ZEBは環境負荷の削減だけでなく、経済的なメリットや快適な空間の提供、災害に対するレジリエンスの強化など、多くの面でメリットを持つ取り組みとして注目されています。また企業のSDGsやESGへの取り組みとしても注目されています。今後は、エネルギー政策や気候変動対策の観点からも、ZEBのような持続可能な建物はより一層求められるでしょう。持続可能な社会の実現に向けてZEB化を検討してみませんか?

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