世界の動向と日本企業の働き方について
―パーソル総合研究所 × NCM パネルディスカッション―

長引くコロナ禍はいまだ社会・経済へ大きな影響を与えています。人々のワークスタイルも大きく変化し、多くの企業ではテレワークやオフィスの縮小・地方移転、働く場所・働く時間の柔軟化など、ワークスタイル・ワークプレイスに多様性が求められる時代になりました。日建設計コンストラクション・マネジメント(NCM)では、時代に合ったワークスタイル・ワークプレイスについての知見を深めるとともに、自社のワークプレイスについて更新していくことも見据え、関連テーマでの社内研修や勉強会を実施しています。 この一環として、パーソル総合研究所の小林祐児さんをむかえ、コロナ禍で半ば強制的に導入が進んだテレワークが、経営戦略としてのテレワークに変化し始めている今の日本、そして世界の現状について、オンライントークディスカッションを開催しました。今回はその一部を抜粋してご紹介します。

日本の企業は今後どのような働き方が主流になるのか

長瀬暁人(以下長瀬)
ひとつ目のテーマである、「世界の動向と日本企業の働き方」について、世界、そして日本企業は今どのような状況にあって、今後どのような働き方が主流になるのか、ということを深堀りしていきたいと思います。

小林祐児(以下小林)
テレワークの実施率を見ると、アメリカはかなり突出して多いです。理由としては車社会なので渋滞がひどく、コロナよりかなり前から家でも働けるようにしていたことと、単純に家が広いという住宅事情も要因のひとつとしてあると思います。一方で、コロナ前から当たり前にやっていたので、逆に「オフィスに戻ろう」という、「もっとオフィスに集まらないと新しいものは生まれないよね」という感覚が非常に強いようですね。特にシリコンバレー系のIT企業はそういった流れがあります。そのためアメリカはコロナ後、そういった動きになるのではないかと思われます。また、ヨーロッパを見ると、テレワークは労働者の権利だということで法整備が進みつつあるのは非常に面白いですね。フランスではいわゆる「繋がらない権利」ということでも議論が盛り上がっています。このような労働者意識の高さや法整備の早さは、日本にはなかなかない感覚ですね。日本でももっと盛り上がってもいいのかなと思っています。

長瀬
他社の事例を参考にして、オフィスやワークスタイルをつくっていくということがかなり難しくなったとみなさん認識しているのにも関わらず「他社はどうか?」とよく聞かれます。
アメリカやヨーロッパではない、「日本」という国で企業はワークスタイルのゴールをどこに見据えて目指すべきと考えますか?

小林
日本は労働人口不足が諸外国と比べても加速度的に進行していくと思います。みなさんの建設業界も非常に人手不足を感じていると思いますが、超高齢化社会の真っただ中にアフターコロナとして経済回復が起こると、今まで以上に人手が足りない状況に陥ると考えられます。その時にテレワークはやはり人を雇い入れることに対して強い武器になります。
3年前は入社して一定期間職場に来てもらい、慣れたらテレワークOKにします、という企業が多かったのですが、現在は最初から『テレワーク可能』という求人応募のほうが非常に多いです。人材獲得競争が地域・空間を飛び越えて行われるのは、今後当たり前になってきます。これがひとつの日本の属性ですね。
テレワークをうまく定着させ、生産性が下がらず、かつテレワークというものをなし崩しに消え去らずに定着させる企業が、いい人材をつかみ強みを発揮し続けていくのだろうなと思います。
そして、アジアや欧米も高齢化が進んできますが、日本は飛びぬけています。そういう意味でもテレワークを定着させる意義は世界各国よりも強いと思います。
今はどこの企業もDXを進めていて、IT人材バブルが起こっていますが、この流れもおそらく不可逆的なので、最初から地方に埋もれている、優秀な人材を獲得するためにもテレワークをうまく根付かせないといけない企業が多いと思います。

長瀬
労働人口という話の中で、ちょっと話がズレてしまうところがあるかもしれないですけど、日本自体がかなり高齢化だと思います。その中でいわゆる高齢という年齢に分類される方と、30代40代では、働き方が違うと思っているのですが、組織として理想的な働き方ができるのか伺いたいです。

小林
そうですね、特に最初は若い人はテレワークをしたがっているのに、年長の上司や経営者がテレワークを許さないみたいな構図、世代的対立になりやすい状態でしたね。こういうことは今でもあると思いますので、会社が全体のビジョンだったり方針を打ち出していくことは必須かなと思います。対立させておくのはあまりいい状況にはならないと思います。
あとはやはりデジタルネイティブ、いわゆる最初からインターネットがある人生を送ってきた人と、途中からITツールが発展した世代というのは、元々リテラシーに差があります。
でも、ツールに関してはさすがに2年間はやっているので、みなさん結構慣れてきていると思うのですが、使い方の統一的なルールだったり、工夫だったりが属人的になされてしまうということがありますので、そのあたりも年齢関係なくうまく使いこなせるというレベルまで早めにもっていったほうがいいと思います。

NCMの働き方を考える

長瀬
次のテーマである「NCMの働き方を考える」について伺っていきたいと思います。NCMの年齢層は少し高めです。建設コンサルタントという専門知識と経験が必要な職種なので、転職で入社される方も多くいらっしゃいます。今回の講演などですぐにマインドセットができることではないと思いますが、組織・個人としてどうマインドを変化していくべきだとお考えですか?

小林
いわゆるチェンジマネジメントですね。マネジメントの在り方、どう変えていくのか?という話はどこの企業の方々も苦労しています。
こちらをたてればあちらがたたず、といったことを考えすぎですよね。日本人は関係性の地図の中で自分が浮いてしまうことを嫌がります。でも、そのままだとなし崩しに出社が増える企業になるだけです。
コロナがなくなると、みなさんテレワークのことをあまり考えなくなるのではと思います。今は世論がテレワークについて旗を立てている状態なので、社内で旗を立ててくださいと言うのも言いやすいですし、立てやすい。これが例えばコロナが収束したら、世論の旗をなくなりますよね?そうするとワークスタイルチームが「こういうイベントやりますよ」って言っても誰も人が集まらなくなる。そうするとそろそろやめようかって話になり、どんどんテレワークが社内で廃れていくという流れになっていってしまいます。
不幸中の幸いというか、コロナ禍が長引いてるということは、テレワークを根付かせるチャンスの延命でもあるわけですよね。コロナが収束ときに旗をたてられる人って相当強い人だと思うので、やはり今のうちに組織でコミュニケーションであったり、みなさんで話し合いませんか?とやることだと思います。

長瀬
質問がきておりますので読みますね。
「多くの日本の大企業は創業者がリタイアしてサラリーマン経営者が経営していますが、経営者のマインドセットの難しさ、成功事例などはありますか?」

小林
これは経営者自身の怠慢というよりも垂直的なコーディネーション(各部分の動きを調整し、全体の統一をはかること)が弱い代わりに、水平的なコーディネーションが強いというところからきています。経済側もボトムアップに非常に期待するし、ボトムアップじゃないと、なかなか経営が動かないのも、またひとつのリアルです。
経営者のせいにするだけではなくて、いかに下から会社を変えていけるかという動きは日本企業だからこそできるかなとは思います。人が変われば会社は変わりますので、それを上からやるのか、下からやるのかで言うと、やっぱり多くの企業は下からの方が早いのではないか、というのが私の実感ですね。

長瀬
次の質問は「チェンジマネジメントを行うために小林さんはこれまでどのような取り組み、活動をされていますか?」

小林
私は調査研究者であってコンサルタントではないので、もしかしたら思ったお答えにならないかもしれませんが、例えば私の話を聞いて人事の方がそれを社内に持ち帰り経営層に話をしても、経営層を説得できません、と言われることがたびたびあります。そういうときに実際その会社の経営会議に呼ばれてディスカッションをするということはあります。ただ、そういったときに自社の方が私の横に座って黙っているだけですと正直何も進みません。
私の話を受けて何を提案するかきちんとデザインしておかないとうまくはいきませんよね。

長瀬
3つ目の質問です。「人事管理側がリモートでありながら情報収集をしていくことに難しさを感じています」これもよく出てくる話題ですね

小林
人事側は現場ことがわからないです、という話はよく聞きますが、これはもう単純に「話に行く」、それだけだと思います。現場の裏の情報、つまり表には現れない従業員調査に記載されない情報を取りにいくというのは、アメリカ企業だろうが日本企業だろうが、常に組織運営側としては必須な作業だと思います。それをサボっている人事は少し考えたほうがいいですよね。

長瀬
デジタル文化の常識化が必要ではないか、という質問もきていますが、どう思いますか?

小林
新しい文化を持ってきてそれに対して年長世代が合わせる、という形は大体うまくいかないです。年長世代がカチンとくるからですね。やっぱりデジタル文化のような細かいコミュニケーションの工夫はローカルルールとしてみなさんの組織・チームの中で話し合って決めたほうがいいと思います。ミドル・シニア問題を長く研究していますけれども、「今までこうやってうまくいってきたことをなんで今更変えなきゃいけないんだ」っていうほうの気持ちもちゃんと汲み取ってあげることはすごく重要だと思います。「古い世代が全然ついてこないんだよね」という感覚でいると、チームはうまくいかないです。より細かいローカルルールを設定する場を設けるように話し合いで決めていくほうがいいと思いますよ。デジタル文化は変わっていきますしね。

長瀬
まとめになります。今回のディスカッションでは、働き方に対する世界と日本の違いや世代や立場による意識の差、日常業務の中で埋もれがちなワークスタイルへの意識改革についてお話していただきました。いま様々な企業がどのようにワークスタイル・ワークプレイス改革に取り組んでいくかという状況も見えてきたと思います。本日はありがとうございました。

※資料出典:パーソル総合研究所 小林祐児氏 講演資料(2022年1月)より
※掲載内容は2022年1月時点のものです

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