四国水族館における信託スキームでの水族館開発
ESG投資により地方創生型の建築プロジェクトを推進

四国水族館 × SMBC信託銀行 × 日建設計コンストラクション・マネジメント

2020年4月に香川県綾歌郡宇多津町の宇多津臨海公園の一角に開館した四国水族館。
瀬戸内海に面した香川県のほぼ中央にあり、県下で一番面積の小さい町である宇多津町に開館した四国最大級の水族館で、「四国水景」がメインの展示テーマです。四国の河川や瀬戸内海、太平洋に生息する生物を中心に展示し、地域の活性化に寄与する施設として期待されています。
コロナ禍でのオープンとなりましたが、家族連れの来場者が引きもきらず、地域では屈指の人気施設になりました。
水族館の建設に当たってはSMBC信託銀行が不動産ファンドを組成して事業に参画。現在香川県内などの複数企業が出資する四国水族館開発が経営しており、アトア(神戸市)などを運営するアクアメントが施設の運営を受託しています。
四国水族館は日本の水族館としては初めて信託スキームで建設・運営が行われている施設で、日建設計コンストラクション・マネジメント(以下NCM)は、構想段階から事業に参加し、プロジェクトを包括的にマネジメントしました。
今回は、この四国水族館のプロジェクト開始当初から事業を牽引する四国水族館開発 代表取締役の流石様、四国水族館 館長の松沢様、SMBC信託銀行 不動産投資顧問部長の宮牟礼様に、当社マネジメント・コンサルティング部門ディレクターの榎本がお話を伺いました(以下敬称略)。

鳴門の渦潮を再現した水槽では、海の中からのぞいているような感覚を体験できる。フォトスポットとしても人気

四国の景色を代表する「四国水景」をテーマに、地域創成や活性化に資する水族館を企画

四国水族館のプロジェクトが始まったきっかけをご紹介ください。

四国水族館開発・流石 学(以下流石)
2010年くらいから宇多津町が臨海公園に水族館を誘致しようというアイデアがあり、2015年に地元企業などが出資して運営準備会社となる四国水族館開発が設立され、具体的な検討を始めました。確実かつ長期的な収益が求められる水族館の事業資金の管理や運用を行ってもらうため、SMBC信託銀行に参加してもらったという経緯があります。

SMBC信託銀行・宮牟礼 吉章(以下宮牟礼)
SMBC信託銀行は2013年にSMBCグループ入りしました。それまでSMBCグループはグループ内に信託部門を持っておらず、2013年に発足したSMBC信託銀行はメガバンクの信託銀行としては最後発。四国水族館の事業は、信託銀行として地域活性化に貢献でき、SMBCグループとして総合力を発揮できるプロジェクトになると考えました。
施設の企画はゼネコンの大成建設と、神戸市立須磨海浜水族園の指定管理者として同園の維持管理・運営に携わっていた建設コンサルタント企業のウエスコが担当。NCMには建築品質、スケジュールの妥当性やコスト管理などを含め、建設プロジェクト全体のマネジメントを担当してもらうため参加してもらうことになりましたね。

四国水族館・松沢 慶将(以下松沢)
ウエスコでは、須磨海浜水族園事業部(以下事業部)が中心となり四国水族館の基本構想・基本計画から参画しました。2017年以降は、事業部を分社化して設立したアクアメントが事業を引き継ぎ、四国水族館準備室を設けて開業準備にあたりました。
四国水族館は「四国水景」をテーマに四国を代表する水景を多様な切り口で展示し、四国の芸術・歴史・文化を想起させる水族館にしようと企画しています。都市部の大きな水族館は世界中の海洋生物を展示していますが、我々は、足元の自然に目を向け地域の自然環境とそこに息づく生物の魅力を伝え、従来の水族館が目をつけなかった地域創成や活性化に資するSDGsやESGの考え方を取り入れることに注力しているんです。

四国最大級となる650立方メートルの水槽で、四国南岸を流れる黒潮と、その先に広がる太平洋の様子を展示

事業者の立場となって、施設の品質・コスト・スケジュール・リスク管理をトータルでマネジメントするのがCMの役割

NCM・榎本 拓幸(以下榎本)
NCMが参加したのは資金調達を行っている段階でしたね。パースを作成したりして、投資を募るためのプレゼンテーションのお手伝いをしました。
それぞれの会社にとって、事業に参加した意義をお聞かせください。

流石
四国を訪れる観光客は、香川県ではうどんを食べ、金刀比羅宮にお参りするものの、宿泊は愛媛県や高知県へと移動してしまうという課題があったんです。
そこで瀬戸大橋の四国側のたもとにあたる宇多津町に水族館ができれば、香川県内で宿泊する人が増え、経済効果として年間83億円が見込め、地域活性化に大きく貢献できるという目算がありました。プロジェクトが進行していくにつれ、四国全県の観光動線を作ることができれば、さらなる地域創成につながると夢が広がっていきましたね。

宮牟礼
SMBCグループの中でSMBC信託銀行なら不動産ファンドの組成運用の手法を通じて事業に参画できるんですよ。金融機関として一歩踏み込んで事業にコミットしたことで、投資家からのプロジェクトの信用度が高まり資金を調達できたと自負しています。
投資家から集めた資金で土地を仕入れ、物件の売却益により出資元金と分配金を償還する手法を開発型ファンドと呼びますが、四国水族館の場合は設備が完成して運営段階になっても出資者がそのまま残っている極めて珍しい事例ですね。
四国水族館の建つ「宇多津臨海公園」の敷地は宇多津町から貸借していますが、民間から集めたかなりの金額の資金を施設の設備投資に使った例は四国内ではほとんどないでしょう。一般的に不動産投資では施設の運営業者が所有者に一定の賃料を支払うのが普通ですが、四国水族館の場合は運営の事業リスクも投資家が負う仕組みです。このようなとてもユニークな事業に金融機関として参加できたことで、地域に投資を呼び込むスキームの可能性が広がったと感じています。

海沿いに広がる「宇多津臨海公園」に位置する四国水族館

NCMはコンストラクション・マネジャーとして事業に参画しました。コンストラクション・マネジメント(CM)という業務にどのようなイメージを持たれたでしょうか。

流石
CMという業態に接するのはこのプロジェクトが初めてでした。事業者側の立場になって、建設に関してコスト面や品質面などのマネジメントを行う役割と受け止めましたよ。建設を行うゼネコンに対して、弁護士のように事業者の代理人として交渉してくれる、頼りになる存在だと思います。

松沢
私がプロジェクトに初めて参加した会議では、榎本さんが会議を仕切り、事業がうまく進むように奔走していて、びっくりしましたね。こんなに親身になってプロジェクトに参画しているのかと驚きました。CMは、建設分野においては素人の事業者を守ってくれる顧問弁護士のような存在だと思います。

宮牟礼
NCMは黒子に徹しながらも、時には会議で矢面に立ち、プロジェクトを推進するために最適なパフォーマンスを見せてくれたのは素晴らしかったですね。

榎本
プロジェクトの成功に向けて品質とコスト、スケジュール、リスク管理までトータルでマネジメントするのがCMの役割です。施主である事業者の要望を設計・施工者に交渉したり、プロジェクト全体を俯瞰的に見てコスト調整するなど、より良い形に提案していくことも役割の一つです。
事業を成功させるには、建設の技術を理解しているCMがただコンサルティングを行うのではなく、事業者と設計・施工者の立場をそれぞれ理解し、事業者の構想と建設技術の架け橋となるマネジメントを行うことが大切です。

水族館のキャラクターに採用されているアカシュモクザメは、ハンマーヘッドといわれる頭の形が分かりやすいように下から見上げる展示にしている

サステナビリティを意識して事業を進め、地域の住民が誇りに思える施設をつくるのが重要

ESGやSDGsの観点から、これからの地方創生や地域のまちづくりについての考えをお聞かせください。

流石
私は地域にお住まいの方が、自分たちの町や地域を誇りと思えるかどうかが重要だと考えています。近年、地域における人口減少や少子高齢化が課題となっていますが、日本全体の人口が減少していく中で、特定の地域だけ人口を増やしても本質的な解決になりません。
地方都市の多くは10年前の予測よりも若干人口が減っていて、東京など都市部の人口が逆に上振れしていますよね。大都市圏に人口が集中するのは世界的なトレンドであり、それに抵抗しようとするよりは、地域で生活している人が幸せを感じるようにする方が大切だと思います。
四国水族館ができたことで住民が地元を誇りに思えるのであれば、SDGsの目標11「住み続けられるまちづくりを」に貢献できたことになりますし、企業のESGの取り組みとしても価値のあることだと思います。

松沢
四国水族館では地域にゆかりのない生物を無理して飼育展示する必要はないと考えているんですよ。都市部の巨大な水族館と同じ土俵で競うことは、事業の持続性の観点からも避けるべきです。地域の環境教育の担い手としては、自然と触れ合って魅力を感じる適正なサイズが求められます。環境に配慮しながら地域にお住まいの皆さんの郷土愛を育み、遠方からお越しの方には移動コストに見合う新しい価値を提供していく。そのために、生物の物珍しさではなく、見せ方や解説の仕方で勝負することを職員に徹底していますね。

榎本
設計者の皆さんとも協議を重ね、海豚プール以外は鉄骨造の建築にユニット式の水槽を配置することで、展示計画を変更しやすい設計になっています。多くの水槽が建築躯体と一体化している水族館では、建築物の主要構造部を壊さないと新しい展示を作れませんが、ここでは比較的簡易な工事で将来いろいろなコンテンツに入れ替えることを可能にしました。

展示の更新などに対応するため、建築躯体から独立したユニット水槽を採用。美術館のような展示と評価も高い

松沢
施設そのものがSDGsの目標12「つくる責任 つかう責任」を体現していますよね。他にも館内のペーパーレスを徹底し、紙のチラシやパンフレットを極力配布しないようにしています。傘袋を配布するかわりに専用のタオルを設置したり、ストローを再生紙製にするなど使い捨てプラスチックの削減にも取り組んでいます。
これからの水族館は、資源を無駄にしないということを伝えるだけでは不十分。持続的社会の実現のために取るべき具体的な行動を、無理の無い範囲で促していくことが、社会教育施設であるわれわれの役割でもあるからです。

宮牟礼
私たちは金融機関としてサステナビリティを意識して事業を進めてきました。これから30年間この水族館を運営していくため、必要な再投資を事業計画に組み込んでいきます。
さらに、ガバナンスの観点から、関係者全員に情報を共有できていることが重要だと考えており、このプロジェクトでも継続的に情報共有を図っていきたいと思います。
また、今回のプロジェクトを機に個人的に思うのは、地域に根ざした事業を進める上で、今は法人から資金を集めていますが、クラウドファンディングのようなやり方で個人の投資家から資金を集めるESG投資のような仕組みがつくれないものかと思っています。

流石
「なんのために水族館をつくったか」という当初の思いを忘れないようにしたいなと常々思うんですね。周辺地域の住民団体やボランティア、協力企業、宇多津町をはじめとする行政など、地域の多くの皆様のご支援、ご協力をいただき、開館にこぎつけることができたからです。
四国水族館開発は経済産業省から地域経済の中心的な担い手になりうる事業者として「地域未来牽引企業」の1社に選定されたんですよ。

松沢
宇多津町としては安心安全でにぎわいがある住みやすい町にしていきたいという希望があります。水族館が臨海公園の核となってにぎわいを創出する。そのために、水族館で結婚式を挙げたり、歓送迎会に利用したりと、非日常の空間をさまざまな用途に利用してもらうなど、新しい価値を生み出したいと思います。

海豚プールの前で。海を背景にしているため、イルカが飛び跳ねると、まるで海からジャンプしているように見えるそうだ

■プロジェクト概要
名  称:四国水族館
事業会社:株式会社四国水族館開発
アセットマネジメント:株式会社SMBC信託銀行
運  営:株式会社アクアメント
行政支援:宇多津町
設計監理:大成建設株式会社
施  工:大成建設株式会社
環境デザイン/施工:株式会社乃村工藝社
PM・CM :日建設計コンストラクション・マネジメント
規  模:敷地面積:8,516㎡
建築面積:4,561㎡
延床面積:7,277㎡
構  造:S造及びRC造

CM選奨2021 特別賞受賞

記事編集制作:日経BPコンサルティング/原稿執筆:小槌 健太郎/Photo:木村 輝

【四国水族館】
https://shikoku-aquarium.jp/

【SMBC信託銀行】
https://www.smbctb.co.jp/

※掲載内容は2022年時点のものです。

MEMBER’S VOICE

四国水族館プロジェクトにNCMが参画した当時は、SDGsやパリ協定の採択を受け、あらゆる活動にそれまで以上の「サステナビリティ」が求められ始めた時期でした。

そのような時代背景の中、前例のない「信託スキームによる地方創生型の水族館」を実現するために集結したメンバーと、建設プロジェクト推進当時のお話ができたことを大変うれしく感じています。

今後もプロジェクトメンバーのサステナブルな関係を維持し、より良い四国水族館の未来を共有していきたいと思います。

ディレクター/榎本 拓幸

四国水族館 |PROJECT

四国水族館

四国水景をテーマにした”次世代水族館”