ネットゼロとは?
カーボンニュートラルとの違いや取り組みなど
2024.11.28 Thu
建築・建設の基礎知識
2015年のパリ協定の採択や、2020年に日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」などにより、地球温暖化や気候変動への対策が一層重視されるようになっています。これらの取り組みは、将来世代にも豊かな地球環境を引き継ぐために欠かせないものであり、持続可能な社会の実現に向けて重要な役割を果たしています。そのような中で、「ネットゼロ」という言葉は、近年の環境問題を考える上で理解しておきたいキーワードとなりました。
今回はそんなネットゼロについて、関連するキーワードとあわせて詳しく紹介します。建設業・建築業が行うネットゼロに関する取り組みについても紹介しますので、参考にしてください。
ネットゼロとは
ネットゼロとは、地球温暖化の原因の一つとされる二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスの排出量が、森林などによる吸収量・除去量を差し引いて合計がゼロになった状態のことです。2015年にパリ協定が採択されたことをきっかけに、日本をはじめとする世界各国が「2050年までにネットゼロを達成すること」を目標として掲げています。
参考:日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 経済産業省資源エネルギー庁
2050年ネットゼロ実現に向けた国内・国際動向 環境省
「ネット」という言葉には「正味の」という意味があり、「ネットゼロ」は「正味ゼロ」という考え方です。これは温室効果ガスの排出を完全にゼロにすることではなく、限りなくゼロに近づけると同時に、吸収量や除去量を増やすことで最終的にゼロ(実質ゼロ)の状態を目指すというものです。そのため、ネットゼロの実現には、排出を抑えるだけでなく、森林や技術による二酸化炭素の吸収・除去の向上も必要となります。
ネットゼロと「カーボンニュートラル」「カーボン・オフセット」の違い・関係
ネットゼロと関連する用語に「カーボンニュートラル」「カーボン・オフセット」があります。それぞれの言葉の意味や違い、関係性について確認しましょう。
1)カーボンニュートラルとは
カーボンニュートラルは、温室効果ガスの排出をできる限り減らし、吸収量・除去量と均衡した状態にすることです。排出量と吸収量・除去量を差し引いた際に、正味ゼロとなる状態を指すネットゼロとは、ほぼ同義の言葉として用いられます。
つまり、カーボンニュートラルもネットゼロも、排出された温室効果ガスを同量の吸収・除去によって相殺し、環境への影響をゼロにすることを目指しています。
参考:日本のエネルギー 2022年度版 「エネルギーの今を知る10の質問」 経済産業省資源エネルギー庁
カーボンニュートラルについては、「カーボンニュートラルとは?必要な理由や建設・建築業界の取り組みなど」の記事にて詳しく解説しています。あわせて参考にしてください。
2)カーボン・オフセットとは
カーボン・オフセットとは、日常生活や経済活動において温室効果ガスの排出をゼロにするのが難しい場合、その困難な排出量を、他の排出削減や吸収量等(クレジット)の購入や、他の排出削減・吸収を実現する活動の実施等により埋め合わせることを指します。
カーボン・オフセットのクレジットは、排出削減や吸収を実現する活動への資金提供を行って得られるもので、森林保全や再生可能エネルギーの導入、エネルギー効率化事業などに活用されます。これにより、間接的に環境保全や持続可能な社会の実現に貢献します。
このクレジットについては、日本政府が運営している「J-クレジット」や、国連主導の先進国同士の取引制度「JI」、及び発展途上国が販売して先進国が購入する取引制度「CDM」などがあります。
参考:カーボン・オフセット 農林水産省
J-クレジット制度について J-クレジット制度
カーボン・クレジット・レポートの概要 経済産業省
カーボンニュートラルの実現に向けたカーボン・クレジットの適切な活用のための環境整備に関する検討会
第4回 参考資料4
3)「ネットゼロ」と「カーボンニュートラル」、「カーボン・オフセット」の違い
「ネットゼロ」と「カーボンニュートラル」は、どちらも温室効果ガスの「排出量」と「吸収・除去量」を差し引いてゼロにする=均衡を保ち、実質的に排出量をゼロにすることを目指す点で、ほぼ同義として用いられる用語です。どちらも、温室効果ガスの排出をできる限り減らす努力と、残余の排出量を吸収・除去するための活動の両立が不可欠です。
一方、「カーボン・オフセット」は、「ネットゼロ」や「カーボンニュートラル」を達成するための具体的な手段の一つです。自社の温室効果ガス排出量を削減する努力を行った上で、どうしても削減しきれない分については、クレジットを購入するなどで、その削減しきれなかった分を埋め合わせます。これにより、直接的に削減が難しい排出量も、間接的にバランスをとることができ、「実質ゼロ=ネットゼロ=カーボンニュートラル」が可能となります。
このように、ネットゼロやカーボンニュートラルの実現を目指す上で、カーボン・オフセットは有効な手段の一つといえます。
ネットゼロに取り組む重要性
近年、二酸化炭素などの温室効果ガスによって、太陽の熱が閉じ込められ、温暖化と気候変動が進んでいます。気候変動は、地球上のあらゆる地域に深刻な影響をもたらしています。
世界規模で見ると、干ばつや森林火災、さらには海面上昇による低地の水没といった危機的状況も発生しています。このままでは、地球の自然環境が大きく崩壊し、将来世代に深刻な影響を与えることになりかねません。日本においても、気温や海水温の上昇、豪雨や洪水の頻発といった現象が日常化しつつあり、これらは都市部や農業地帯に直接的な被害を与えています
こうした背景から、日本では2020年に国会で「「2050年カーボンニュートラル、脱炭素社会の実現を目指す」ことが宣言され、温室効果ガスの削減を目指したさまざまな政策が進められています。具体的には、地球温暖化対策推進法の改正や、日本企業に対して脱炭素の取り組みを促進するための支援、排出規制の強化などが実施され、国全体でネットゼロ達成に向けた体制が整えられつつあります。
参考:2050年カーボンニュートラルをめぐる国内外の動き 環境省
脱炭素化事業支援情報サイト(エネ特ポータル) 環境省
そのため企業にとってもネットゼロへの取り組みはますます重要な課題となっています。企業がネットゼロ・脱炭素社会に向けて取り組むことは、企業の社会的な責任を果たすだけでなく、将来の事業リスクを低減し、国際的な競争力を強化することにもつながります。また、多くの企業がネットゼロに向けた行動を起こすことで、サプライチェーン全体にわたる温室効果ガスの削減が進むと同時に、消費者や社会全体の環境意識の向上にも寄与します。
建設業におけるネットゼロの取り組み例
建設業においても、ネットゼロに向けたさまざまな取り組みが積極的に行われています。ここからは、建設業のネットゼロの取り組み例をご紹介します。
1)環境配慮型コンクリート
建設業界では、ネットゼロ実現の一環として、二酸化炭素排出量を抑えるための「環境配慮型コンクリート」の開発・導入が進んでいます。
一般的なコンクリートを製造する際の二酸化炭素排出量の約90%は、コンクリートの元となるセメントの製造時に排出されます。環境配慮型コンクリートは、こうした問題に着目し、セメントの代わりに代替素材を用いることで、二酸化炭素の排出量を抑え、低炭素化を実現に貢献します。
さらに、新たな技術として、コンクリート製造過程で周囲の大気や排気ガス中の二酸化炭素をカルシウムと結びつけ、「炭酸カルシウム」としてコンクリートに固定化する技術も開発されています。この技術により、製造プロセスで二酸化炭素を吸収することが可能となり、排出量削減にとどまらず、実質的に二酸化炭素排出量をゼロ以下に抑えることができる画期的な取り組みとして注目されています。
カーボンニュートラルの実現に向けて、これまでにない材料や技術開発が見込まれることに対して、安全性や品質、性能などの確保のために適切な規制の検討も進められています。
参考:第7回 スタートアップ・イノベーションワーキング・グループ 資料2-1 内閣府
環境配慮型コンクリートの社会実装に向けた環境整備
環境配慮型コンクリートを利用した建築物に関する規制の在り方について 国土交通省
2)カーボン・オフセット
自社で二酸化炭素の削減が難しい分は「CER(Certified Emission Reductions、認証排出削減量)」「J-クレジット」などを購入することで、カーボン・オフセットに取り組んでいる事例もあります。例えば、建設工事の工事車両や重機の燃料使用に伴い発生する二酸化炭素排出量を測定し、その分に相当するクレジットを購入することで、排出量の埋め合わせを行い、ネットゼロに貢献しています。
また、造成工事を行う際に使用される建設機械や、現場事務所での電力消費、さらには廃棄物の処理に伴う二酸化炭素排出量を測定し、その分に相当するクレジットを購入することで、排出量の埋め合わせを行い、ネットゼロに貢献する事例もあります。さらに、造成工事後に土地を購入する顧客に対してカーボン・オフセット証書を発行することで、購入者に環境意識を啓発する取り組みも行われています。
建設機器業界においても、省エネ性能が高い建設機械を提供する際、これらの機械の使用により発生する二酸化炭素排出量をあらかじめ算出し、同量のクレジットを購入してオフセットする取り組みが行われています。さらに、機械の購入者にはオフセット証書や、建機に貼付できるステッカーを提供することで、環境に配慮した施工をPRできるような仕組みも導入されています。
このような取り組みは、顧客が環境に貢献する活動の一環として意識しやすくするだけでなく、企業全体の環境へのコミットメントを示す手段としても有効です。
参考:松山市の小中学校空調工事でのカーボン・オフセット J-クレジット
高知市の小中学校空調設備整備事業でのカーボン・オフセット J-クレジット
カーボン・オフセット宣言 カーボン・オフセット フォーラム
株式会社 天野さく泉建総 工事車両を含む全社有車に係るCO2排出量のカーボン・オフセット
建設業・不動産業におけるカーボン・オフセットの取組の調査検討業務 国土交通省 総合政策局 環境政策課
3.国内における建設業・不動産業のカーボン・オフセットの取組事例の整理
3)バイオマス発電の活用
建設業においても「バイオマス発電」が注目されています。バイオマスとは、動物や植物などから得られる生物資源のことで、これら生物資源を直接燃焼やガス化などの方法で発電するのがバイオマス発電です。
その中でも、木材からなるバイオマスを燃やしてタービンを回して発電することを「木質バイオマス発電」といいます。森林を手入れする際に生じる間伐材や、木材の製材工場で発生する残材、建設現場や解体現場で発生する木材などを木質チップなどに加工して木質バイオマス発電への利用が進んでいます。木質バイオマス発電所で発電された電力はFIT(固定価格買取制度)を利用して電力会社へ売電し、電力会社から住宅やオフィスなどへ電力供給されています。
参考:バイオマス発電 経済産業省 資源エネルギー庁
木質バイオマスと固定価格買取制度について 林野庁
また、食品廃棄物や生ごみなどの有機性廃棄物を分解し、燃料としてエネルギー化する技術を開発する企業も増えています。こうした技術は、エネルギーの創出と同時に廃棄物の削減や循環型社会の形成にも大きく貢献しています。
このように建設業界では、建設段階だけでなく、運用・維持管理の段階でもネットゼロに向けた取り組みを多くの企業が積極的に行っています。これらの取り組みは、温室効果ガスの排出削減を通じて地球環境を次世代に引き継ぐ役割を果たすだけでなく、持続可能な社会の実現に向けて企業の社会的責任を果たし、新たな技術やサービスの開発を促進し、企業の競争力向上にもつながります。
最後に
2050年までのネットゼロ実現に向け、日本国内はもちろん、世界各国でさまざまな取り組みが行われています。日本企業にとっても、ネットゼロやカーボンニュートラルを目指した取り組みを行うことは重要な責務です。建設・建築業でも、環境問題は重要な課題として、ネットゼロへの貢献に向けた取り組みが積極的に行われています。今後も建設業・建築業における環境問題への取り組みや画期的な技術に注目してみましょう。
日建設計コンストラクション・マネジメント(NCM)では、森林関連の社会課題解決へ向けた取り組みとして、ともに考え、学ぶ媒体「新林」(しんりん)を立ち上げ、発行しています。
リンク:環境・社会に対する社内の取り組み
また、NCMでは、ESG戦略コンサルティングを「つなぐESG®」というサービス・パッケージとして提供しています。企業の掲げる経営計画にマッチしたカーボンニュートラルの実現から、ステークホルダーへの情報公開や経営関連会議での活用を想定した「カーボンニュートラル・レポート」の作成も含めトータルに支援するサービスです。
リンク:つなぐESG®
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