カーボンニュートラルとは?必要な理由や建設・建築業界の取り組みなど

2020年、日本政府が「2050年カーボンニュートラル宣言」を発表したことをきっかけに、「カーボンニュートラル」という言葉を耳にする機会が増えました。地球温暖化による気候変動問題の解決に向けて、世界共通の目標として掲げられる重要なキーワードです。また、国や政府だけでなく、国内外の企業にもカーボンニュートラルの達成に向けた具体的な取り組みが求められています。
今回は、カーボンニュートラルの基本情報と、建設・建築業界が行っている取り組みについて紹介します。

カーボンニュートラルとは

カーボンニュートラルとは、地球温暖化の原因と考えられる温室効果ガス(GHG)の排出量と、吸収量を均衡に保ち、の合計をゼロ、正味ゼロ(ネットゼロ)にすることを目指すことです。
温室効果ガスの排出量は限りなくゼロに近づける一方で、二酸化炭素(CO₂)を吸収する森林などの自然資源を活用して吸収量を増やし、排出と吸収のバランスを取ること(合計をゼロ)を目指します。

参考:カーボンニュートラルとは 環境省 脱炭素ポータル
   「カーボンニュートラル」って何ですか?(前編)~いつ、誰が実現するの?
   経済産業省 資源エネルギー庁 スペシャルコンテンツ

カーボンニュートラルの重要性や必要性

カーボンニュートラルが必要とされている背景を2つ紹介します。

1)地球温暖化の影響

近年の世界的な気候変動の原因は、地球温暖化であると考えられています。この地球温暖化に影響を与えているとされるのが「温室効果ガス」です。
温室効果ガスとは、二酸化炭素、メタン、一酸化二窒素(N₂O)など、地球表面からの熱を吸収する効果を持つガスの総称です。これらのガスが増加するほど、本来宇宙に逃げていくはずの熱が大気中に残り、地球表面の温度が上昇します。技術が発展した現在は、経済活動における温室効果ガスの排出量が急増しており、このまま大気中の温室効果ガス濃度が上昇し続けると気温はさらに上昇すると予測されています。

地球温暖化は気候変動を引き起こしていると考えられており、世界中で熱波や寒波、大雨、水害、干ばつなど異常気象の頻発化や海面上昇、生態系の変化など、さまざまな問題をもたらしています。

2015年のパリ協定では「世界的な平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分下方に抑えるとともに、1.5℃に抑える努力を追求すること」(2℃目標)や「今世紀後半の温室効果ガスの人為的な排出と吸収の均衡」などが世界共通の長期目標として採択されました。カーボンニュートラルは、この目標の実現に向けて、日本を含む世界中の国と地域が掲げる重要な目標になっています。

参考:平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書 環境省

日本では、2050年カーボンニュートラルの実現に向けて、2030年度において温室効果ガス46%削減(2013年度比)を目指すこと、さらに50%の高みに向けて挑戦を続けることを日本のNDC*(国が決定する貢献)として決定し、国連へ提出しました。
*NDC・・・Nationally Determined Contribution

参考:気候変動 日本の排出削減目標 環境省

2)企業の社会的責任

温室効果ガスの排出量の大部分を占める二酸化炭素は、地球温暖化への影響が最も大きいと考えられています。世界中で森林伐採や開発が進んだことにより二酸化炭素の吸収する木が減少していることも原因の一つとして考えられています。
環境省の資料「2022年度の温室効果ガス排出・吸収量」によると、日本国内の二酸化炭素排出量の内訳で最も割合が大きいのが「企業・公共部門関連」で、全体の78.4%を占めています。

参考:2022年度の温室効果ガス排出・吸収量(詳細) 環境省

そのため、温室効果ガスの排出量と吸収量を合計でゼロにするカーボンニュートラルを目指した取り組みは、いまや企業の社会的責任として求められるものです。2020年に日本政府が発表した「2050年カーボンニュートラル宣言」以降、政府は企業の炭素排出量を減らすための規制や、排出削減努力を後押しする政策や支援を展開しています。それに伴い、カーボンニュートラルに向けた具体的な取り組みを進める企業や自治体が続々と増えています。

建設業・建築業におけるカーボンニュートラルの取り組み

建設業・建築業における、カーボンニュートラルへの取り組みを3つ紹介します。

1)建築物の省エネ化による二酸化炭素(CO2)排出量削減

建設業・建築業では、これから建設する建物の省エネや創エネを実現することによって、二酸化炭素の排出量削減を目指しています。特に近年、カーボンニュートラル実現に向けて注目されているのが「ZEB(ゼブ、Net Zero Energy Building)」「ZEH(ゼッチ、Net Zero Energy House)」です。

「ZEB」「ZEH」はともに、建物のエネルギー消費を抑える「省エネ」を実現しながら、太陽光発電などの再生可能エネルギーを活用する「創エネ」を両立することで、年間の一次エネルギーの収支をゼロやマイナスに近づけることを目指した建築物のことです。

ZEBとZEHでは、対象となる建物の規模、種類が異なります。
ZEBはオフィスビルや公共施設などの大きな建物も対象ですが、ZEHは住宅やマンションなどが対象です。

参考:ZEBとは? なぜ注目され、どのようなやメリットがあるのか
   『家選びの基準変わります』マンガ 戸建住宅編 国土交通省
   『家選びの基準変わります』マンガ マンション編 国土交通省

ZEB・ZEHでの取り組みには次のような事例があります。
 ・自然採光の取り入れやLED照明器具の採用
 ・照明制御、人感センサーの導入
 ・屋根や外壁に断熱性能が高い断熱材の採用
 ・外部に庇やルーバーの設置、Low-Eガラスの採用などで断熱・遮熱性能の向上
 ・自然換気の取入れや高効率空調設備の導入
 ・太陽光発電システムなど再生可能エネルギーの活用
 ・地中熱を利用した空調(クールピット、クールトレンチ)
 ・省エネ対策が行いやすいよう消費エネルギー量や創エネルギーの可視化

政府もZEBやZEHの拡大に力を入れており、ZEBやZEHに取り組む企業や個人に対する補助金制度・支援制度も展開されています。また建物の新築だけでなく改修でも補助金や支援制度が設けられています。なお補助金や支援制度は年度によって異なるため、自治体に確認してみましょう。

2)木材利用の推進による二酸化炭素(CO₂)吸収量の増加

カーボンニュートラルに貢献するために近年重視されているのが、木造・木質建築*です。鉄やアルミニウムのみで建築を行う場合と比較して、木材を利用することにはカーボンニュートラルに貢献する多くのメリットがあります。
*・・・木質建築とは、内装・外装の仕上げに木材を使用した建物を指します。

まず、木材は再生可能な資源です。木材を収穫し、資源として社会の中で活用しながら、伐採した場所に再度木を植えて育てることで、持続的に利用できるサイクルを回すことができます。
光合成によって二酸化炭素を取り込むはたらきを持つ樹木や森林は、伐採された後も吸収した炭素を排出することなく、固定し続けます。若い木のほうが炭素吸収量は高いことから、老いた木を木材として使用し、植樹して若い木を育てることで、二酸化炭素吸収量の増加も期待できます。

さらに木材は建築資材として利用する過程での二酸化炭素排出量を、鉄やアルミニウムなどの金属と比べて低く抑えることができます。火災や地震、耐久性などの安全面に対する課題についても、鉄骨との組み合わせや適材適所での木材利用によって克服が可能です。
他にも木材を活用した空間は、ストレス軽減などのリラックス効果が期待でき、利用する人の健康性や快適性を高めることも期待でき注目されています。

参考:令和元年度 森林・林業白書 全文(HTML版) 林野庁

このように木造・木質建築が増えることは、日本の森林を守り、環境にも人にもやさしいだけでなく、カーボンニュートラル実現に向けて貢献できるなどメリットがたくさんあります。

3)建設現場における省エネ・創エネによる二酸化炭素(CO₂)排出量削減

従来の建設業・建築業の建設現場では、多くのエネルギー消費や二酸化炭素排出が避けられないものでした。しかし現在は、建設中に発生する二酸化炭素量に着目し、省エネ・創エネに取り組む動きが活発化しています。

次の取り組みが一例として挙げられます。
 ・燃費性能に優れた建設機械の使用や、電機や水素が動力の建設機械の導入
 ・建設機械のアイドリングストップの徹底
 ・省燃費運転教育の推進
 ・ICT(Information and Communication Technology)施工の導入で建設機械の自動制御を行い、建設機械の作業時間を短縮
 ・リアルタイムでの二酸化炭素排出量のモニタリング・目標管理
 ・再生可能エネルギーによる「グリーン電力」の活用
 ・高い省エネ・創エネ性能を備えたZEB対応の仮設事務所の施工

建設・建築業界ではこのように、ZEB・ZEHなどを通じ、省エネ・創エネ性能を備えた建築物の設計や、施工時の省エネ・創エネを目指した取り組み、木材利用の推進など、さまざまな段階で二酸化炭素排出量削減を目指すことにより、カーボンニュートラルへの貢献に取り組んでいます。

4)水素エネルギーの活用で進めるカーボンニュートラル

脱炭素社会の実現に向けて、水素をエネルギー源として活用する取り組みが国内外で進められています。従来の火力発電では、発電時に二酸化炭素が排出されていましたが、水素を利用した発電では二酸化炭素を排出しません。特に再生可能エネルギーから生成された水素は、さらなる温室効果ガスの削減効果が期待されています。また、水素は大量に長期の貯蔵と、長距離輸送が可能で、車やバスといったモビリティ用途、発電や燃料電池を含む電力市場、さらには産業用途での活用が期待されています。さらに、災害時のエネルギー供給など、さまざまな分野での利用も期待されています。

当社の事例では、再生可能エネルギーから水素を製造する世界最大級の水素製造施設である「福島水素エネルギー研究フィールド」の実現に貢献しました。この施設では、水の電気分解により水素を製造・貯蔵・供給し、電力系統に対する需給調整を行うことで再生可能エネルギーの電力を最大限利用するとともに、二酸化炭素を排出しないクリーンで低コストな水素製造技術の確立を目指しています。また、この施設の電力は太陽光発電設備から供給されており、そのコンストラクションマネジメント業務も当社が担当しました。

参考:福島水素エネルギー研究フィールド
   福島水素エネルギー研究フィールド 太陽光発電設備
   『新エネルギー新報』に当社社員のインタビュー記事が掲載されました
   水素エネルギーシステムのトップエンジニア山根史之氏による社内講演会を開催しました

最後に

カーボンニュートラルは、2050年までに実現すべき目標として、世界各国で取り組みが行われています。日本では特に企業の協力が重視されており、建設・建築業界でもそうした動きに応える取り組みが活発に行われています。今後ますます求められるカーボンニュートラルの取り組みに注目しましょう。

日建設計コンストラクション・マネジメント(NCM)では、企業の掲げる経営計画にマッチしたカーボンニュートラルの実現から、ステークホルダーへの情報公開や経営関連会議での活用を想定した「カーボンニュートラル・レポート」の作成も含めトータルに支援する「つなぐESG®」のサービスを提供しています。

その他、建物・不動産に関する各種ご相談は、日建設計コンストラクション・マネジメント(NCM)までお気軽にご相談ください。

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