東京會舘本舘建替計画
~コンサルティング及び設計監理~
「再開発共同事業における事業性検証・建設コンサルティングから

伝統と格式を継承し最新設備を備えた社交場設計まで」

東京會舘 × 日建設計コンストラクション・マネジメント

東京會舘
代表取締役社長

渡辺訓章氏

東京會舘
本舘 宴会支配人

山本健嗣氏

NCM
代表取締役社長

水野和則

NCM
チーフ・マネジャー

岩阪聡一郎

2019年1月にグランドオープンした3代目となる東京會舘新本舘、遡ること約100年前の1922年、社交場の活用がまだ一般的でなかった時代に、東京會舘は民間初の社交場として現在地である皇居の目の前に誕生しました。初代の本舘はルネサンス様式の外観や宴会場の大シャンデリアなど当時としても印象的な意匠を数多く有し、人々の記憶に深く刻まれた社交の場として多くの方に利用されてきました。その後1971年に建替えられた2代目本舘もモダンな建物として多くの人々に愛され、2016年に惜しまれつつ閉館しました。

このような歴史を持つ「東京會舘」が「三菱地所」「東京商工会議所」との3者事業として新本舘を再開発による1棟ビルに建替えることになり、2012年より日建設計コンストラクション・マネジメント(以下NCM)が、東京會舘サイドのコンサルタントとして、プロジェクト推進、事業性検討、建築計画の提案など初期段階から深く関わらせていただきました。
今回は東京會舘代表取締役社長であり、建設計画スタート時に本舘総支配人であった渡辺社長、本舘開設準備室にて総合的にご対応いただいた山本宴会支配人に当時を振り返っていただき、プロジェクトについて様々な視点で語っていただきました。

ボリューム検討とブロックプラン、事業性検証支援まで

水野
今回のプロジェクトは3事業者による事業協定締結とほぼ同時期にNCMも参画させていただきました。建物全体のプランを決定していく初期段階から共にプラン検討できたことは、良かったと思いますがいかがですか。

渡辺
当時、事業協定締結までは3事業者とビル全体の設計者で建物全体の形を決める打合せを幾度となく重ねていましたが、ビル全体の最適な形が、東京會舘にとっての最適とはなかなかならず苦慮していました。東京會舘は他の事業者と違い、宴会、婚礼、レストランを提供、経営している訳ですから、一般的なオフィスをつくるようにはいきません。建替え前は3事業者とも別々のビルだったので、それを1つの建物にして建替えるということは本当に多くの難題を乗り越えなければ実現できないだろうと思っていました。

岩阪
最初にお会いした時に、現状のプランがこれだと建物の平面図を見せていただきましたが、東京會舘の車寄せやロビーの形状、地下の駐車場など計画初期の段階で詰めていかないといけないところが、決めきれていなくて。
車寄せは東京會舘の顔になりますし、建物全体の中での位置づけや使い勝手を考慮して、今の車寄せの原型となるプランを用意し打合せさせていただきました。

渡辺
そうでしたね。車寄せやロビーのプランを見た時は、これだ、と思いました。また最初の頃は色々な可能性を検討したくて、例えば7階だけでなく8階も宴会フロアにするとどうかといったことも検証をお願いしました。やはり東京會舘として皇居側の眺望は大切なので。

水野
ええ。皇居、日比谷通りに面したこの場所は、建物のボリューム、デザインも景観上大変重要で、高層部と低層部のバランスや外観意匠についても検討し、現案に近い提案もさせていただきました。低層部を専有、営業に使われる東京會舘ですが、やはり建物として高層、低層一体ですので、柱のスパン割りや位置など構造的に解決しないと合理的な提案とは言えません。そのあたりも提案できたのは初期段階からご依頼いただいたからこそでしょうか。

上:東京會舘 旧本舘(初代)外観 設計:田辺淳吉・草間市太郎
下:東京會舘 旧本舘(2代目)外観 設計:谷口吉郎
Photo:いずれも東京會舘提供

丸の内二重橋ビル
東京會舘新本舘 外観

上:建替前(2代目)配置図
下:建替後 配置図

建替後 断面図

東京會舘新本舘 車寄せ 外観

岩阪
概ねプラン割が決まってきた段階で並行して費用検討をしました。やはり再開発による共同事業の場合は、所有区分や負担割合の整理が重要になります。ちょうど2014年から2015年頃は建設費が高騰した時期でしたので、我々も予算立案と区分整理には様々な方策を打ち出しながら、検討を進めました。

渡辺
この規模の再開発工事で、予算通り最初から最後まで問題なく終わる、なんていうことはなかなか無いのでしょうけど、事業性検証を行っている頃や工事費確定に至るまでは、本当に大変でしたね。一方、着工以降はグレードアップの設計変更など多くの要望を出させてもらいましたが、しっかりとコスト管理をしていただき予算内で納めてもらったので、全体事業費の観点でも問題なく竣工を迎えられたのは本当に良かったと思います。

水野
やはり基本計画段階でのコスト立案や検証は非常に重要で、プロジェクトの成否を分けると言っても過言ではないと思います。その点では非常に効果があったのではないでしょうか。

渡辺
そうですね。当初、事業者間で総事業費を検討していた際は、提示された費用で東京會舘として満足できるグレードになるのか心配で、参画早々、NCMにチェックしてもらいました。結果、その費用では実現が難しいことが分かり、再検討してもらいましたが、最終的にはその時のNCM提示のコストをベースに、最後まで進めることになりました。おそらく、あれが無ければ、事業計画も大きく様変わりしていたと思うので、非常に助かりました。

ボリューム検討・外装検討資料

會舘の歴史、伝統と格式の継承を念頭に外装、車寄せの提案を行う

水野
本日もこのインタビュー前に低層部や車寄せを改めて拝見しましたが、東京會舘らしい伝統と格式を備えた建物になったと思います。

山本
正面玄関前の通りでは来舘者だけでなく通行人の方も東京會舘の車寄せを背景に撮影されたり、その写真をSNSにアップされたりと、東京會舘の情報発信に一役も二役もかっています。以前の2代目本舘は専用の車寄せが無く、大宴会や年始の賀詞交換の際などは前面道路が送迎の車で渋滞していたのですが、今の建物ではスムーズに車寄せに誘導でき、エントランスロビーまでご案内できます。

渡辺
やはり外装については3者共同ビルになっても東京會舘と一目でわかっていただける必要がありましたから、色々な要望を出させてもらいました。

岩阪
はい、車寄せ上部の外壁には高さが7m以上にもなるレリーフを20枚設置しましたが、それは共同設計者の日建スペースデザインが、初代本舘に施されていた様々な文様を参考にして新たにデザインしたものでした。当初は全て同じ意匠のレリーフとする予定だったのですが、渡辺社長より「1枚1枚違う文様を入れてはどうか」という提案をいただき、結果、20枚すべてが異なるフォーシーズンズレリーフとして設置することとしました。

フォーシーズンズレリーフ コンセプト                  フォーシーズンズレリーフ

山本
このレリーフは四季を象徴する桜や向日葵、トンボや鶴などの動植物がモチーフになっていますが、このあたりもお客様との会話には事欠かせません。長いお付き合いが多い東京會舘のお客様とは、初代本舘や2代目本舘からヒントを得たもの、また保存復元しているものは、話題にあげやすく、話が弾むことが多いですね。

岩阪
はい、コンセプトにも挙げましたが、東京會舘の正面玄関と車寄せは来訪者を迎え入れる顔であるという考えのもと、初代本舘の意匠をモチーフにした庇(ひさし)を提案させていただきました。

東京會舘 旧本舘(初代)外観 Photo:東京會舘提供

車寄せ庇(ひさし)

宴会・婚礼のための最先端技術・設備を備え
インテリアデザインは旧舘の歴史を継承

岩阪
設計段階では様々な宴会施設のスペックを打合せさせていただきました。特に3階のローズ(大丸有エリア最大規模の宴会場)は床面積1,500㎡で最大2,000人収容という規模ですが、共同ビルという条件下では騒音振動対策が大きなポイントで、内装全てを浮形状とするボックスインボックスの6面浮構造を最先端の技術を駆使して設計しました。窓回りも防音対策上ダブルスキンにしていますし、この規模での6面浮構造は他にはないと思います。監理業務を遂行することにより竣工後にはチェックできない工事段階の施工品質確認まで行うことができました。

3階ローズ内観

渡辺
音の問題は、建物ができてしまった後に解決することは難しいということが分かっていたので、慎重に進めましたね。移動間仕切りも実際の施工事例を色々見て回ったこともありました。

山本
竣工後、グランドオープンまでにローズで実際に和太鼓を叩いてみて、どの程度音漏れなどの問題がないか確認しようということもやりました。結果的には問題なく終わりましたが。またシャンデリアやAV設備などの天井吊物設備、折り上げ天井の見え方なども検討してもらいました。

岩阪
はい、設備設計は共同設計者として日建設計の設備部門が行いましたが、インテリア・照明・空調・シャンデリア・AV設備を遮音のための浮天井とのバランスを考慮して納めることは本当に難易度が高かったですね。

水野
1階のエントランスロビーには、猪熊弦一郎氏作モザイク壁画が展示されていますが、これも2代目本舘から受け継いだものですね。

渡辺
外装だけでなく内装にもこれまでの意匠を随所に取り込んでもらいました。1階エントランスロビーのモザイク壁画前に設けられている金環照明も2代目本舘のシャンデリアをレプリカで再現したものですが、新しいデザインの中に従来の意匠が合わさり、東京會舘として打ち出した新しい事業コンセプト「NEWCLASSICS.」にもつながっています。

1階エントランスロビー貫通通路部 モザイク壁画と金環照明

モザイク壁画 設置前検査

モザイク壁画 設置前検査(部分拡大)

山本
3階のらせん階段最上部に設けられた大シャンデリアも、初代本舘より三代にわたって100年近く受け継がれてきたものです。婚礼式典の際、初代本舘で祖母が、2代目本舘で母が式を挙げられたというお客様が、「今回の新本舘でも大シャンデリアの前で撮影できることは何より嬉しい」とおっしゃったことがありました。計画段階ではどこに設置すべきか悩んでいましたが写真もきれいに撮影できる、らせん階段に設置して本当に良かったと思います。

岩阪
そうですね。大シャンデリアはなかなか設置場所が決まりませんでしたが、色々な角度から見ることが出来るので、らせん階段を計画した時からここしかないとデザイナーと提案させていただきました。また今回の工事では、一品一品を手仕事で行う工事が多かったですね。山本支配人には、立ち会っていただいたモザイク壁画や大シャンデリアの検査など、一つ一つのパーツや部品を職人さんが組み上げていく過程を見ていただきましたし、さらにそれらの耐震性なども考慮して納まりを検討していきました。

らせん階段より大シャンデリアを見上げる

水野
最近の同様のプロジェクトにおけるインテリアデザイナー選定では、外国人デザイナーが採用されることが多いですが、今回は共用部や宴会場、チャペルは日建スペースデザイン、また料飲施設は乃村工藝社さんやメック・デザイン・インターナショナルさんが選定され全て日本人デザイナーでした。何か理由はあるのですか。

渡辺
やはり日本の迎賓施設なので、日本人がデザインすべきと思っていました。今回、プロジェクト始動時に「ALL JAPAN」で進めたいということと、「共に議論を重ねて一緒につくっていきたい」という想いがありました。それは流行り廃りではなく、東京會舘の歴史を踏襲しながら実態に沿ったものにしたかったからです。おかげさまでそれをしっかりと実現できたと思います。
また、今回は古き良きものを生かしつつ、最新設備を取り入れたものにしたかったので、一つ一つの課題を初期段階からNCMに相談できたことが大きかったですね。

水野
最後に、東京會舘にとって2022年で創業100周年を迎えることになりますが、今回の新本舘建設の位置づけ、振り返り等、改めてお聞かせいただければと思います。

渡辺
創業した100年前というのは時代の変革期でもあり、ここ丸の内エリアも大きく様変わりした時期でした。東京會舘は、その時代の要請というものがあって、この地に誕生したのです。東京會舘では、時代や建物が変わっても、創業以来変わらない理念をこれまで受け継いできましたが、それを改めてこの新本舘に引き継げたことは、この先の100年を始める準備がしっかりとできたということになります。これは利用いただくお客様にとっても、東京會舘社員にとっても、本当に喜ばしいことです。
そしてこの一大事業を計画初期のコンサルから設計監理まで、一貫してNCMにお任せしプロジェクト進行してもらったことは本当に大きかったと思います。

岩阪
ありがとうございました。引き続き、アフターフォローさせていただきます!

■プロジェクト概要

名称:丸の内二重橋ビル 新築工事
発注者 :三菱地所、東京商工会議所、東京會舘
設計監理:三菱地所設計
※日建設計コンストラクション・マネジメントは、日建スペースデザイン、日建設計(設備部門)と共に
東京會舘サイドのオーナーズコンサルティングを実施
施 工 :大成建設、関電工、高砂熱学工業、西原衛生工業所、三菱電機
規 模 :地下4階、地上30階、塔屋2階
構 造 :SRC造・SRC造

名称:東京會舘本舘 建替計画 内装設備工事
発注者 :東京會舘
設計監理:日建設計コンストラクション・マネジメント
日建スペースデザイン(共用部・宴会場・チャペル等 インテリアデザイン)
日建設計(設備設計)
乃村工藝社(料飲店舗等 インテリアデザイン)
メック・デザイン・インターナショナル(料飲店舗等 インテリアデザイン)
施 工 :大成建設、関電工、高砂熱学工業、斎久工業、三菱電機

(東京會舘新本舘Photo:益永研司写真事務所)
(対談風景Photo:吉田周平)


【東京會舘ホームページ】
https://www.kaikan.co.jp

【東京會舘について】
https://www.kaikan.co.jp/about/

※掲載内容は2019年時点のものです。

PROJECT

東京會舘本舘建替計画

東京會舘は1922年(大正11年)“世界に誇る施設ながらも誰でも気軽に利用できる人々の集う社交場”として誕生。ルネサンス様式の初代本舘が皇居の目の前である現在地に建設され、2代目本舘は1971年に建替えられました。このような歴史を持ち、数々の社交の舞台として多くの人々におもてなしをする場として親しまれてきた東京會舘を2012年、三者の共同事業として建替えることとなりました。