武田グローバル本社 
グローバル企業の「デザイン・アイデンティティ」をマネジメントする

武田薬品工業 × SAMURAI × 日建設計コンストラクション・マネジメント

武田薬品工業
社長室長(役職は当時)

福富康浩氏

SAMURAI
アーキテクト

齊藤良博氏

NCM
チーフ・マネジャー

榎本拓幸

2018年3月に日本橋本町に竣工、同年7月にグランドオープンした、武田薬品工業のグローバル拠点となる「武田グローバル本社」。
武田薬品工業は、日本を代表するグローバルな研究開発型のバイオ医薬品のリーディングカンパニーとして、優れた医薬品の創出を通じて人々の健康と医療の未来に貢献しています。
日建設計コンストラクション・マネジメント(以下:NCM)では、街区開発の一環としての武田薬品工業のグローバル拠点「武田グローバル本社」の新築プロジェクトにおいて、プロジェクト全体を俯瞰し全方位をカバーする「総合支援型CM」としてプロジェクト統括マネジメントを行いました。
また、クリエイティブディレクションに佐藤可士和氏、インテリアデザイン総合監修にSAMURAIを起用し、「生きる力」というコンセプトのもとにデザインされた建物内部のアートワークなど、創造的な空間演出を実現しました。
今回は本プロジェクトの責任者である武田薬品工業 経営企画部長 兼 社長室長の福富様(役職は当時)、インテリアデザイン総合監修を担当したSAMURAIの齊藤様に当社チーフ・マネジャーの榎本がお話をうかがいました。

日本橋の地に伝統とイノベーションを両立するグローバル本社を建設したいという想いが込められたプロジェクト

榎本
本日はプロジェクトの楽しかった思い出など、ざっくばらんにお話をうかがっていければと思います。

まず、武田グローバル本社建設プロジェクトの経緯からお話をうかがいたいと思います。
このプロジェクトは、現在グローバル本社が建っている日本橋本町が武田薬品工業(以下:武田薬品)が明治時代に東京の拠点を置いていた地だったということや、旧社屋の老朽化やグローバル化に対応するためにイノベーティブな本社が必要になったとうかがいました。

福富
旧東京本社ビルは築50年以上経過していました。造りそのものが良かったので、大きな問題はなかったのですが、その一方で会社のグローバル化に伴い、日本人以外の社員やお客様が増え、会議と言えば海外とのテレビ会議が中心になり、更には働き方改革を推進するにあたって、最新のハードを持ち、社員の創造力を引き出す環境が必要になったというのが一番の理由ですね。

榎本
このビルが完成してから、武田薬品さんのオフィスに一緒に訪れる人がまず第一声で「綺麗だね」といっていただいているんです。1階から4階はもちろん、最終的にはかなりのフロアの空間演出をSAMURAIさんにデザインしていただきましたが、「生きる力」というデザインコンセプトを決めた経緯をSAMURAIの齊藤さんにうかがいます。

「生きる力」をコンセプトとしたアートワークのある4階のスカイロビー(Photo:Takumi Ota)

齊藤
実は最初の打ち合わせの前後、何回か旧東京本社を見に行きましたが、クラシカルな役員室や応接室などすごく重厚な印象を受けました。おそらく、当時の薬への信頼や健康への責任などの観点から求められた空間だったのかもしれません。でも現代はもう少し信頼の形は違うんじゃないか、例えば明るさやオープンな風通しのよさといったことを含めオフィス空間で表現しなくては、ということを当初から話していました。また、グローバルに発信するということで革新的なものを品よくアピールしたいということがありました。
薬というものはものすごく画期的なテクノロジーから生まれるものもあれば、植物・自然由来のものもあったりする。そういうことを考えていく中で薬というものは時代や方法は違っても「生きる力」につなげるということを原点にしているということにたどり着きました。また、単なるグローバル企業ではなく日本発のグローバル企業であることを表現できないかというところもデザインの方向性を決める大きな要素でしたね。

榎本
そこから「日本の文化」に、そして「漢字をモチーフにしたアートワーク」というところへ昇華していったということですね。
デザインをする際に木の素材に拘られていたことについては、どのような想いがあったのでしょうか。

齊藤
木は光や水を得ることで日々成長していく、生きる力というコンセプトに重なるようなイメージがありました。木が育って枝が出てひろがり、葉が開いてという成長するイメージをなんとか空間化できないかなということに始まって、そこから木を用いた壁面デザインができないかということが起点にあったんです。

榎本
このアイデアについて、武田薬品さんとしてはどのようなファーストインプレッションがあったのでしょうか。

福富
社長のクリストフは和の要素も取り入れながら、一方で訪れる人が会社のエネルギーを感じることができるようなビルにしたいということをずっと言い続けていました。さらに、そこに来た人が、武田薬品の2百数十年の伝統はもちろん、医薬品、ライフサイエンスの革新性までも感じられるようなオフィスにしたいとも。そういった点がSAMURAIさんの考えとぴったり合致したんです。

「生きる」をイメージしたアートワーク

国産の無垢材でできた生命力を感じるベンチ

プロジェクト参加1回目の会議でデザインが180度方向転換、「本当にできるの?」から始まった

榎本
ここで、プロジェクトの核心に踏み込みますが、実はSAMURAIさんがプロジェクトに参入したタイミングは、既に設計が完了し、全ての構造躯体が立ち上がり、地下から内装工事を仕上げている段階という、通常のビル建設プロジェクトからすると信じられないようなタイミングだったんです。
でも、そこでSAMURAIさんが出したコンセプトが明確で、さらに、それをクリストフさんが迷いなく合意したという、一般的に大きな会社であれば本来一番時間のかかる部分を短縮できたことは、このプロジェクトを成功に導いた要因として最も大きかったと思います。
それに対してNCMが何らかの協力ができたということであれば、このプロジェクトに関われたことは私にとっても本当に良かったと思います。

榎本
さて本質の部分ですが、プロジェクトの不安や問題点、そしてNCMの対応という点についてうかがいます。
福富さんがこのプロジェクトに参加されたのもSAMURAIさんがプロジェクトに参入されたタイミングでしたね。それまでにもいろいろ紆余曲折ありましたが、今日はSAMURAIさんが入った後での思い出や大変だったことなどをお聞かせいただけますか。

福富
わたしがこのプロジェクトに参加したのは2016年の11月でしたね。当初の竣工予定は2018年1月でしたから、竣工まで1年1か月です。急遽、大阪に設計、施工を始めとする関連の企業の皆さんに集まっていただき、「初めまして」のご挨拶をしながら、大幅な方針変更を提案しました。その晩は夜中まで、笑いも笑顔もない氷のような冷たい雰囲気で打ち合わせをしましたが、結局、纏まらずに、翌土曜日に仕切り直しをしました。SAMURAIさんに参加いただいたのもこのタイミングで、ここから、ここまでのデザインを大幅に変更することになったわけです。そういえば、このビルはもともとは一部をテナント貸しする計画もあったんですよね。

榎本
そうですね。オフィスフロアの一部を、関連会社や外部などテナントに貸すというお話もありました。

福富
それもあって、当初はできるだけ一般的なデザインにしようという話だったんですが、それが急遽全部自社で使うことになり、であれば武田薬品の色を出そうとなり、本当に方向が180度変わりました。竣工まで1年ちょっとで何ができるかって正直アイデアがなかったんですが、まさかこれだけ大掛かりな変更になるとは予想していませんでした。それに対しては、不安というより、この短い期間で本当にできるの?というのが本音でした。

榎本
そうですね。時間的な調整については、当初SAMURAIさんにデザインしていただくエリアの内装工事がどう検討してもビル本体の工事と同時にできないという問題がありましたが、施工者さんの協力もあり、これは建材ではなくSAMURAIさんの空間演出のための「アートオブジェ」なんだという視点から工事工程を組み立てなおしながら時間差で工事を進めることができたことがすごく大きな起点だったと思います。

福富
そうですね、工期が竣工までに間に合うのかということは非常に心配でしたし、一方で大幅にデザインを変更することで当初予算で収まるのかという予算の心配もありました。
本当に予算内に収まるの?というのがプロジェクトリーダーとして一番心配でした。

榎本
確かに、大幅なデザイン変更を行った際に一時的に建設予算が上振れした時期もありましたが、建設予算のみではなくプロジェクトの関連予算も含めてコストアロケーションの組立てをNCMにすべて任せていただいたことがプロジェクト成功のカギだったのかなと思います。おそらく当初のコストアロケーションを踏襲していたら今回のデザインの目玉である「アートオブジェ」はビルの1階と4階の一部で終わっていたかもしれません。
事業予算だけではなく、NCMのハンドリング範囲を福富さんがクリストフさんに近い位置で広げていっていただいていたように感じていました。

福富
僕とクリストフの近さというか、クリストフから全面的に任されたというのは、竣工まで時間がない中で、物事を進めていく上で、重要な要素でした。それに加え、NCMをはじめとしたプロジェクト関係者が、必要に応じて、経営陣への説明資料を準備してくれたのも助かりました。

榎本
我々もクリストフさんと福富さんの信頼関係に助けられた部分が大きかったです。
また、我々プロフェッショナルの能力を十分に理解していただいて、デザインに関してはSAMURAIさん、プロジェクトの推進やコスト、スケジュール、クオリティなどについてはNCMが判断していいというならこれで進むと信頼していただいていた事を感じていました。今思うと、すごく深い信頼関係だったので惰性で行うような定例会議や説明資料などはプロジェクトが後半になるにつれて少なくなっていったと思います。

福富
もし、月に1回プレゼンして役員会通してということをやっていたら、もっと時間かかっていましたね。

榎本
そうですね。会議体に応じてその都度適切なメンバーをそろえて頂けたことで、無駄のない承認フローが実現できたのだと思います。

齊藤
デザインに関しても定例会議での協議がその場で承認され、施工者も同時に共有される流れで、決定がとてもスムーズでした。

NCMが「総合支援型CM」で全方位からプロジェクトをマネジメントしてくれたことが、全ての関係者の安心につながり、プロジェクト成功につながった

榎本
ここで少々話を変えまして、NCMがいて助かったなとか、この大きなプロジェクトに対してのCMの存在意義とかがあれば教えてください。

福富
まず、最初から最後まで自覚していたことは、我々はどこまでいってもデザインも建設もわからない素人だということです。
施工者から工期、予算が出されてもそれが妥当なのか基準やベンチマークがなく何の検証もできないんです。そこで誰に頼るかというとCMr(コンストラクション・マネジャー)なんです。その点で、榎本さんは唯一の味方だったんです。それ以外のメンバーが敵というわけではなく、デザイナーや設計者、施工者から出てくる提案の妥当性を武田薬品の立場で検証できる人、「本当のところどうなの?」と本音で相談ができたのが榎本さんでした。

榎本
ありがとうございます。
ベンチマークという言葉が出ましたが、実は、今回のプロジェクトで難しかったのがベンチマークがない初の試みが非常に多かったことなんです。例えば「アートオブジェ」は、何が適正価格なのか、どうつくるかなど、皆初めてのことで比較や検証がしづらかった。そこはSAMURAIさん、設計者さん、施工者さんを引き付けてミックスして、必要であれば現物を皆で確認しに行ったり、品質だけでなく、人と人をうまくコントロールすることが今回は非常に重要なマネジメントスキルだったのかなと思っています。

齊藤
僕らが参画したタイミングではプロジェクトはかなり進んでいて、設計者さん、施工者さんも我々も全速で走らなければいけない状況でした。しかしそれだといろいろな事故が起きる可能性がある。そこで、プロジェクトをマネジメントする方がレールを引いてくれるとすごく安心して走れるんです。モータースポーツにたとえると、僕らがドライバーだとしたらどのタイミングでピットインするか、どこでオーバーテイクするかなど指示をしていただけると未然に事故を防ぐことができます。プロジェクトがスタックしてしまうことは絶対に避けなければならないので、そこはSAMURAIとしてもすごく慎重にやっていました。定例会議以外のタイミングでも、胸襟を開いた関係で、NCMさんにいつでも相談できる環境を作っていただいたたことが大きかったと感じています。

榎本
そうですね。このプロジェクトは経験年数の多いプロフェッショナルの方から、新しい考え方を持った若い方までプロジェクトに関わる方が多くて、レールを引くためにマニュアル通りの正論を言ってもなかなか全員には受け入れてもらえないこともありました。

齊藤
クライアント、施工者、デザイナーそれぞれの正論があって、でもそこだけを主張し続けてもスムーズには進みません。榎本さんが会議の場で、「これは今やるべきだ」「今優先する必要性はないのではないか」など情報整理を行いながら上手に調整してくれていたので、プロジェクトがスタックせずに進行していったのだと思います。

福富
そういう話をうかがうと、我々からしたら榎本さんは味方だと言いましたけど、SAMURAIさんも、例えば施工者さんや設計者さんが何考えてるのかってことなどを、榎本さんがいたからこそ聞けたりしていたんですね。

齊藤
でも、そこは「おそらく」なんですけど、必要なことだけで余計な情報は伝えてないんです。迷わせないというんでしょうか。

福富
そう、榎本さんの強みって厚い信頼を得ていることなんですが、その信頼がどこからきているかっていうと、余計なことを言わないってことだと思います。例えば、不確かなことは我々がどれだけプッシュしても言わなかったですよね。
間に合うんですか。予算内に収まるんですかっていっても「まだわかりません」って。(笑)

榎本
その時に判断できないことについては、会社としての意見ではなくCMr個人の判断で参考としてはこうですと伝えることは心がけていました。「不確かなのでわからない、答えられない」と答えるだけなら、それは我々の業務に対するリスクマネジメントでしかないと思います。ある程度の信頼関係が築けているクライアントやデザイナーが我々に聞きたいのは、「約束しろ、担保しろ」ということではなく感覚や思想を知りたいんだという部分が非常に大きいと思います。そこは会社として断言できない状況であっても自分の感覚を伝えることで、「わかった」とおっしゃっていただけましたね。例えば私の言い方で、半分くらい信じといたほうがいいなとか、9割9分大丈夫なんだろうなというところをコミュニケーションの中で感じ取っていただけるよう、意識して会話をしていました。

福富
そういう意味では、普段、簡単に大丈夫と言わない榎本さんが大丈夫と言ってくれると、本当に大丈夫なんだな、となるわけです。榎本さんとは1年ちょっという短い期間のお付き合いでしたが、その間に築き上げられた信頼関係は10年来の友人以上のものでした。そういう意味では、クライアントとの信頼関係を構築することは、CMrにとっては何よりも重要ではないでしょうか。

榎本
実はトータルコストの着地が狙ったラインのギリギリだったので、最後までひやひやしていたんです。(笑)
本当はもっと余力をもったコストコントロールをするプロジェクトが多いのですが、予算とスケジュールが許す限り最後までやりたい事やデザインを突き詰めて実現してきた結果だと思っています。

どんなプロジェクトも成功へのカギは人と人との信頼関係

榎本
次に、建設プロジェクトに関わらず、大きなものを動かしていくまとめていくための人物像、スキルについて、何が大事か、企業経営に関わってらっしゃる福富さんの視点から、教えていただけますでしょうか。

福富
どんな仕事でも同じだと思いますが、結局は「人と人」だと思います。「人と人」を大事にすることで信頼が生まれる、信頼があれば、任すことができる。任すことができれば、任す人も任された人も、もっと効果的に効率的に動ける。ただ、信頼は築こうとして築けるものではなくて、細かいことの積み重ねからしか生まれません、そこに近道はないと思います。あと付け加えるとすれば、意思決定をする力と最後は責任を取る覚悟でしょうか。

榎本
私も仕事において信頼を得るということは常に意識しています。でも自分から「信頼してください」ってお願いしても簡単には信頼されないですよね。まず、そのプロジェクトを好きになり、全力を尽くすことでプロジェクト関係者からの信頼が生まれてくるんだと思います。

SAMURAIさんも大きな企業を相手にされているので、そのトップの方々とお話をされる中で信頼をどう得ていくのかというようなことはありますか。

齊藤
業界のトップランナーのような大きな企業とのお仕事は、まだ見たことないものを思い切って創り出していかないと中途半端な内容になりがちだったり、ご要望にこたえられないことも多いんです。そういったとき、エラーを発見して少し戻ってまた先に進むの繰り返しなんです。その時のしなやかさ、辛抱強さが必要だと思っています。大きな企業の経営者の方とお仕事をさせていただくと、エラーに対してやり直すことをいとわない方が多いと感じます、しかもその判断が早いんです。捨てるべきものは捨てる、そしてすぐに次に取り掛かるという、すごくしなやかで辛抱強いと感じる方が多いですね。

榎本
SAMURAIさんとこのプロジェクトでお仕事させていただいたとき、最初は多くのグローバル企業のトップの方々とお仕事されているので、引いてくれないのではないかとか、しなやかじゃないんじゃないかという不安があったんですが、実際は真逆でしたね。

齊藤
そうですね、真逆だと思います(笑)

榎本
実際は誰よりもしなやかだったところもあったと思います。佐藤可士和さん・SAMURAIさんは、デザイナーというより、デザインに関するCDO(チーフデザインオフィサー )のような立ち位置で、CEOの右腕として、会社のデザインやブランディングに関わること全てを経営判断として「会社としてこうするべきだ」という視点で提案、ジャッジしてくれるんです。今回のプロジェクトでその立ち居振る舞いをみて、デザイナーという表現は合わないかもしれないと感じていました。

齊藤
そうですね。そのための材料というか要素としてデザインがあるというイメージを持っています。

榎本
齊藤さんと交わした雑談の中に「実は現状のまま何もやらないって選択肢がベストな時もあると思っています」と言われたことがありました。例えば、いままで企業が築き上げたものが価値あるものであれば、変革を求められているプロジェクトであってもここはいじらないほうがいい、とジャッジされることもあるという事だと思います。そういったことから、単なる自己表現ということではなく、クライアントである会社をよくしていこうというポリシーに基づいて仕事をしている組織なんだなとすごく感じました。

武田薬品、SAMURAI、世界で活躍する企業としての今後の展望は

榎本
さて、最後に、もう少し枠を広げ武田薬品さん、SAMURAIさんの今後考えていることをうかがっていきたいと思います。
その前に、まずは我々が考えている今後について。超高層ビルにかかる様々なコストに例えてお話させていただきますと、一般的にビルの寿命は60年~100年といわれていますが、60年間のライフサイクルコスト全体を考えると新築にかかるコストは20%程度でしかないんです。わかりやすく言うと、200億円でビルを建設したとすると、その後の60年間で800億円をかけて改修やメンテナンス、電気代の支払いということをやっていきます。我々も新築をサポートするだけではなく、その後の運用やイグジット戦略までご協力できるノウハウをさらに高めていきたいと考えています。
特にグローバルな大企業の場合は国内外に多くの不動産を持っていたりするので、ビル単体ではなくCRE(コーポレートリアルエステート)戦略という考え方で、企業の保有する不動産全体の戦略検討を担うポジションでありたい、というのが我々がこれから目指していくスタンスです。
例えば、この武田グローバル本社だけのマネジメントではなく、その他の国内拠点、R&D施設、海外の施設など全てに対し、最も無駄なく施設の品質や価値を維持できるような不動産の持ち方、活用の仕方、購入売却や改修のタイミング等を戦略的に提案して末永くお付き合いできる環境を作っていくのが我々の次のステップだと思っています。

これまでデザインがなかった領域にデザインの発想を持ち込みたい

榎本
SAMURAIさんはこれから建築プロジェクトのボリュームを増やしていきたいという思いなどはありますでしょうか。

齊藤
おかげさまでここ数年、空間の仕事が増えてきています。もともとSAMURAIではグラフィックデザインも空間デザインも、また、映像やWeb、プロダクトなども一貫したディレクションの元に行われているのですが、その延長線上に、今までデザインというものがなかった領域にデザインの発想を持ち込みたいという思いがあります。
例えば、実は企業の人事というものはデザインの発想が活かせるのではないかと。こういうキャリアの人をこの仕事につける、どの業種の人とコラボレートするかなどを、同様に考えていくことが、新しいものを生む原動力になるのではいかと思います。こういったこともクリエイティブなものを作るための、広義の意味ではデザインという領域になっていくのではないかと感じていて、個人的にはそういった試みも増やしていきたいと考えています。それは経営に近いものかもかもしれないし組織運営かもしれない、アウトプットは限定せず、今やっているデザインの手法をへ生かせるジャンルを探していきたいなと思っています。

榎本
すごく斬新ですね。SAMURAIさんから人事とか人のアサインに関することが出てくると、僕らももっと仕事の視野を広げていかないといけないなと思いますね。

齊藤
そういう風にしていろいろなものをクリアな視点で見ていくと、よりやるべき事が純化されるんではないかと思います。

榎本
課題に対する効果を最大化するためには空間やグラフィックをデザインすることだけが答えではなく、例えば人の入れ替えで最大の効果を得ることが考えられるなら、人と人の関係性をデザインすることが正解ということですね。

武田グローバル本社は、日本にベースを置くグローバル企業としての情報発信ツール

榎本
武田薬品さんは歴史もあり大きな会社なので、企業理念やミッション、ビジョンをお持ちと思いますが、さらに我々の子、孫の世代へ向けてどんな会社になっていきたいですか。

福富
現在、武田薬品はグローバル展開を加速しています。売上規模では世界で上位10位内の製薬企業であり、ニューヨークにも上場しています。そのような中で、このグローバル本社は日本企業でグローバルに事業を展開する'Takeda'のアイコンだと思っています。訪れるお客様はこのビルを見て'Takeda'を感じ、それを人にも伝えます。海外から出張してくる従業員も、東京のヘッドクオーターについて本国の仲間に話します。このビルのデザインを海外の拠点でも使いたいという声も上がってきています。世界中の'Takeda'のオフィスが、グローバル本社と共通するテーマ・イメージを持つことは、コーポレートブランディングとしても非常に大切だと思っています。

榎本
グローバル本社の完成後、福富さんは様々なメディアにも登場されていますね。

福富
ビルの評価も含めて注目されることはうれしいですね。様々なメディアで取り上げて頂いたおかげかデザインや建築を学んでいる学生さんも1階のビルエントランスなどを見学に来ているらしいです。

榎本
そういう意味では1階までSAMURAIさんによる空間デザインの範囲を伸ばしてよかったですね。当初は4階のスカイロビーまでで、1階はビルの共有部なのでどうするか検討となっていましたが、来館者以外の方が外からも見える、入れる場所にSAMUTRAIさんのアートオブジェがあるのはよかったのではないでしょうか。

1Fエントランス(Photo:Takumi Ota)

齊藤
建築の学生さんもいろいろ実際に見て勉強したいという意欲が強いみたいですね。

榎本
最近は建築の学生さんも就職先がすごくフレキシブルになっているようです。昔はデベロッパーかゼネコンか設計事務所か、みたいなところがありましたが、今はSAMURAIさんのような様々なデザインやディレクションを手掛ける会社さんがあったり、逆に我々のような建築マネジメントの会社に建築を専攻していない学生さんが受けに来たりもします。「建築専攻ではないけど地方都市におけるコミュニティーの研究を活かして再開発プロジェクトのマネジメントがやりたい」といってくる学生の方もいたので、既存の価値観にとらわれたままでは優秀な人材を取り損ねるなという危機感も持っています。

齊藤
何事においても視野は広い方がいいですね。いろんな視点の方が意見を出したほうがおもしろいものをつくれることが多いと思います。

榎本
職歴や学歴だけでその人の得意分野を見抜くことのほうが難しいですね、もっと広い視野でまず「人」を見ようよ、ということでは先ほどの信頼関係を築くという話に通じるのではないでしょうか。仕事やプロジェクトへの愛情、人とのやり取りなどで関係者の皆様に魅力を感じてもらえなければ、多くの人間が携わる大規模な建設プロジェクトのマネジメントはできないと思っています。

福富
一つの医薬品のライフサイクルが約10年ということを考えると、デベロッパー、設計、デザイン、建築の仕事のスケールの大きさや時間軸の長さには圧倒されました。日本橋の「まちづくり」の一環として、武田グローバル本社の建設を支援していただいたNCMさん、SAMURAIさんをはじめとする関係者の皆様には、本当に感謝しています。

榎本
本日はありがとうございました。

■プロジェクト概要

名 称:武田グローバル本社
発注者:武田薬品工業株式会社、武田薬品不動産株式会社
プロジェクトマネジメント:三井不動産株式会社
コンストラクションマネジメント:日建設計コンストラクション・マネジメント
都市計画・設計・監理:株式会社日本設計
施 工:株式会社竹中工務店
空間クリエイティブデザイン:佐藤可士和
インテリアデザイン総合監修・インテリアデザイン:SAMURAI
規 模:地下4階、地上24階(最高高さ 123.79m)
構 造:S造・SRC造・一部RC造

(Photo:吉田周平)

【武田薬品工業株式会社】
https://www.takeda.com/jp/

【SAMURAI】
https://kashiwasato.com/

※掲載内容は2019年時点のものです。

PROJECT

武田グローバル本社

街区開発の一環としての武田薬品工業のグローバル拠点・武田グローバル本社の新築プロジェクトです。
空間クリエイティブディレクションに佐藤可士和氏、インテリアデザイン総合監修にSAMURAIを起用。創造的な空間演出をめざして「デザイナーの想い」「施主のコスト・機能的要望」「設計者・施工者の技術的要望」等を総合的にマネジメントしました。
加えて、資産区分・税務検討を含めたCRE対応、ビル管理会社選定、商業テナント検討推進等も含めて担当し、CMrが情報ハブとなることで、プロジェクトの全方位をカバーする「総合支援型CMの実現」を達成しています。

STORY

物事はすべて、アイコニックに考える
――NIKKEN FORUM「 建築 × 佐藤可士和 」イベントレポート

建築家が建築設計以外の仕事を手掛けることが多くなってきたように、建築家以外の専門家による建築や空間のデザインも多くみられるようになりました。互いの業界概念に捉われない自由な発想やデザインが影響を与え合い、都市・建築・インテリア・ランドスケープをはじめ、グラフィックやコミュニケーションのデザインにまで大きな影響を及ぼし合っています。
そこで、日建グループでは、ジャンルに捉われず広くデザインに関わっているクリエイティブディレクター・佐藤可士和氏を講師にお招きし、NIKKEN FORUM「建築×佐藤可士和」を開催。これからの建築との向き合い方についてお話しいただきました。
さらに後半は、佐藤氏と武田グローバル本社の新築プロジェクトで協働した日建設計コンストラクション・マネジメント(以下:NCM) チーフ・マネジャーの榎本拓幸とのトーク・セッションが行われました。今回は、その模様をリポートします。