建設DXとは? 重要性や課題・対策などについて解説

さまざまな分野でDX(デジタルトランスフォーメーション)という言葉が聞かれます。少子高齢化やパンデミックといった社会的な変化に柔軟に対応するため、さらには市場競争を勝ち抜くために、DXの推進は企業にとって避けられない課題となっています。これは建設・建築業界においても同様です。
今回は、建設・建築業界におけるDXの重要性や、課題・対策などについて詳しく解説していきます。

建設DXとは

建設・建築業界におけるDXを説明する前に、まずDXとは何か、簡単におさらいしましょう。

1)DX(デジタルトランスフォーメーション)とは

DXとはデジタルトランスフォーメーション(Digital Transformation)の略称です。DXを推進している経済産業省によれば、DXは次のように定義されています。

「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」
出典:ミラサポplus「デジタル・トランスフォーメーション」DXとは何か?IT化とはどこが違うのか?
   経済産業省 中小企業庁

これを簡単に言えば、DXとは、「デジタル技術を使って、ビジネスのスタイルそのものを変革」していくことと言えるでしょう。
よく似た使われた方をする言葉にIT化があります。IT化は、アナログで行っている作業をデジタル化することで業務の効率化や品質向上、コストの低減などが主な目的です。DXにも業務効率などは含まれますが、DXがより重要視しているのは、その業務の効率化や、データやノウハウの蓄積によって得られる組織やビジネスモデルそのものの変革と仕組み化です。

2)建設DXの重要性

DXが企業に求められる背景には、少子高齢化による人材不足や、新型コロナウイルスの影響で、業務のオンライン化が進むなど、ビジネスを取り巻く環境の変化が挙げられます。こうした環境の変化に対し、いち早くDXを導入して生産性向上を実現している企業も現れています。
また建設業界では人材不足や労働生産性の低さ、労働時間の長さなどが喫緊の課題となっており、DXの重要性がますます高まっていると言えます。

建設DXで対策できる建設業の課題

それでは、建設業界が抱える課題解決につながる建設DXを具体的に見ていきましょう。

1)労働生産性の向上

建設業は一般的に労働生産性が低い産業といわれています。2021年の全産業の平均労働生産性が4,522円/人・時間だったのに対し、建設業は2,944円/人・時間と、全産業平均を約35%も下回っています。2013年頃から上昇傾向にあるものの、他業種と比較して生産性が低い水準です。
出典:労働生産性の推移 建設業デジタルハンドブック 一般社団法人日本建設業連合会発行

DXの例として、図面管理システムの導入が挙げられます。これまでは製本されていた図面管理がデジタル化され、打合せ場所や現場でアプリから図面を確認できるようになりました。さらに、建設現場の作業や確認結果を直接データに記録するシステムを導入することで、入力作業時間が削減され、業務全体の生産性が向上しています。

2)人材不足

建設業の就業者は1997年の685万人に対して2022年は479万人と、25年間で約30%も減少しました。さらに、2002年には55歳以上の就業者が全体の24.8%だったの対し、2022年には35.9%になり、約11%も高齢化が進んでいます。また、建設業は技術の共有が難しい産業でしたが、人材の新陳代謝が進まないことで、技術の継承も困難になってきています。
出典:建設業就業者数の推移 建設業デジタルハンドブック 一般社団法人日本建設業連合会発行
   建設業就業者の高齢化の進行 建設業デジタルハンドブック 一般社団法人日本建設業連合会発行

DXの事例では、土木工事における建設重機(ブルトーザーやショベルカーなど)を遠隔操作できるシステム導入や、高所や狭所の点検でのドローンの活用で省人化や生産性の向上を実現しています。また、コンクリートの打設時に作業管理システムを導入して合理化を図るなど生産性の向上を行っています。さらにウェアラブルカメラやVR、デジタルツールを活用したマニュアル化などで技術の継承にも取り組んでいます。

3)働き方改革への対応

建設業では過重労働も大きな課題です。2022年の建設業における年間出勤日数は240日で、調査対象となる産業全体の平均の211日よりも29日も多いのが現状です。 2007年からの推移を見てみると、産業全体が出勤日数の大幅な短縮をしてきたのに対して、建設業では同程度には短縮できず、その差が大きくなりました。
出典:年間出勤日数 建設業デジタルハンドブック 一般社団法人日本建設業連合会発行

2019年から順次施行された働き方改革関連法により、時間外労働時間の上限が月45時間や年360時間など規定されており、違反した場合は、企業に罰則が科せられることもあります。建設業界でも業務の効率化や省力化、省人化は急務でありDXを早急に進める必要があると言えるでしょう。
DXの事例では、労働時間の削減に向けて、相談や打合せに映像が共有可能なWEB会議を活用することで建設現場までの移動時間を削減する取り組みや、柔軟な働き方を可能にする制度導入へ向けた生産管理システムを採用する取り組み、通信システム、データプラットフォームを併用してリアルタイムの情報共有と意思疎通を行う取り組みなど、働き方に関するさまざまな取り組みが進んでいます。

設計段階の事例の紹介

建設DXの事例は、すでに多くの建設プロジェクトで見られます。さまざまな段階で普段の業務に浸透し、効率化に貢献しています。ここでは、設計段階の事例をご紹介しましょう。

1)建物の外観・内観イメージをAIで生成

建物のデザインは、従来は設計者が施主と打合せを重ね、複数のデザインを提案する、といった流れが一般的でした。しかし現在は、打合せの早い段階からAIを活用して精細なイラストやパースを作成し設計を進める方法が取り入れられています。AIが生成したイメージを活用しながら、施主の要望を反映し、法的な条件を満たすように効率的に設計を進めています。

2)ARを利用して建物の完成イメージを現地で確認

ARは「Augmented Reality」の略称で、「拡張現実」の事です。ARはスマートフォンやゴーグル、タブレットを利用して、現実の風景にCGや設計図を重ねて表示し、建物の完成後の様子を確認することなどに活用されています。これまではパースや動画などでイメージを確認していたため、建物完成後に、大きさや高さなどがイメージと異なると感じる場合がありました。ARでは現地でスケール感を持って共有することができます。

i-Constructionと建設DXの違い

建設DXと並びよく出てくるワードにi-Construction(アイ・コンストラクション)があります。似ている概念ではありますが、きちんと区別して理解しておきましょう。

1)i-Constructionとは

i-Construction(アイ・コンストラクション)とは、国土交通省が2016年にスタートした取り組みで、建設現場に「ICTの全面的な活用(ICT土工)」等の施策を導入することによって、建設生産システム全体の生産性向上を図り、魅力ある建設現場を目指す取り組みです。
参考:i-Construction 国土交通省

2)i-Constructionと建設DXの違い

i-Constructionと建設DXは、いずれもデジタル技術の活用で生産性や安全性の向上を目指すという点では共通しています。しかし、i-Constructionは、建設現場の生産性を2025年度までに2割向上させるといった具体的な目標も挙げられた国土交通省の「取り組み」であり、建設DXはデジタル技術を使って、建設業界の人手不足や技術継承、効率化などの課題を解決するといった「概念」であるという違いがあります。

建設DXのカギとなる技術

ここでは、建設DXを進める上でカギとなる技術をいくつか紹介します。

1)ICT

ICT(アイシーティー)とは「Information and Communication Technology」の略称で、日本語では「情報通信技術」などと訳されます。いわゆる、デジタル化された情報の通信技術のことです。ICTという言葉を知らなくても、すでにメールやSNSなどで、多くの人が使っている技術です。ビジネスの世界でも、いまや当たり前で、ICTを使うことでテレワーク化もグンと進みました。建設分野でも、スキャナーによる3D測量や重機の遠隔操作による土木工事、配筋検査や内装検査などの検査システムへの導入など、幅広い業務で活用されています。

2)AI、AGI

AIは「Artificial Intelligence」の略称で、いわゆる人工知能のことです。コンピューターが自ら学ぶ能力が進化し、さまざまな分野で応用され始めています。建設・建築分野でも重機の操作をAIで補うことも可能になってきています。また、業務の相談や質問が可能な対話型のAIの導入も進んでいます。

AGIは「Artificial General Intelligence」は汎用人工知能の事で、あたかも人間のような知能を持つ人工知能の事を指します。知能水準は人間と同等もしくはそれ以上とも言われており、自己学習を繰り返しながら成長していくAIです。将来、AGIは建設・建築業界における課題解決に大いに貢献する可能性があります。

3)ドローン

もともとは軍事用の無線操縦による無人機全般の総称でしたが、現在は、一般的にはプロペラが4つ付いた、無線操縦の無人航空機のことをさします。ドローンも産業用に幅広く使われており、建設業においても、測量や点検、資材の運搬など、さまざまな場面で活躍の場を広げています。

4)BIM

BIM(ビム)は「Building Information Modeling」の略称で、コンピューター上に作成した3次元の建物のモデルに、建築物のさまざまな属性情報を埋め込むことのできるシステムです。建築の設計、施工から維持管理までのあらゆる工程で活用することができます。
BIMでは建物を構成する各部材を一元管理できます。例えば、従来は平面図と立体図を別に修正しなければならなかったのが、BIMでは部材を修正すると、関連する要素が自動修正されます。このように業務効率を画期的に変えるシステムとして期待されています。

5)CIM

CIM(シム)は「Construction Information Modeling」の略称で、建設生産・管理システムの効率化・高度化を図る取り組みです。2012年に国土交通省によって提言され、既に建築分野で進行していたBIMを手本に開始されました。

CIMとBIMの違いについて、基本的な概念は同じですが、BIMが建物の建設工事を対象に使用されているのに対して、CIMは主にダムや高速道路などの大規模な土木工事に使われるケースが多いです。CIMは地形や地質などの自然環境条件の情報も属性情報の対象です。
BIMもCIMも建築業界で今後期待される取り組みですが、まだ普及段階のため、BIMまたはCIMとCADの併用になりやすく、コストの増加や、維持管理・運用段階での人材確保・人材育成が課題となっています。

建設DXの活用は、企業の業績向上、現場の業務効率の改善や安全性の向上に寄与するだけではなく、建設業界全体の3K(きつい、汚い、危険)という従来のイメージもポジティブな方向に変えられる可能性を秘めています。建設業界の明るい未来のためにも、建設DXに取り組みましょう。

建設DXについて、さらに詳しく知りたい!という方は、関連記事の「BIMとは?CADとの違いや導入メリットなど」「建設業におけるドローン活用」もぜひ併せてご覧ください。
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