アートが感性を刺激し、対話を促す

アートに伝えたいメッセージを込める

私はこの大阪オフィスの改修プロジェクトにクリエイティブディレクターとして参加しました。それは空間体験を通じてコンセプトのストーリーに少し奥行きを与え、無機質なオフィスから、日建設計コンストラクション・マネジメント(以下NCM)のみなさんが誇りを持てる居心地のよい空間へと変えるためです。実は当初の印象では、この改修プロジェクトはとても退屈なものになる可能性がありました。彼らの仕事はモノづくりをメインとする設計建築・デザイン事務所とは少し違い、マネジメント・コンサルティング会社としてのスタイルを保持し、数字やスプレッドシートばかりで、けして「感情的」なモノではなかったからです。しかし、仕事がルーチン化し彼ら自身がコモディティ化してしまうという危機感を持っていました。彼らはオフィスにアートを入れることで、直接的に感性や感情を触発し、一見退屈そうな日々の仕事の行きつく先にはとてもインスパイアされた創造物が待っているのだと、日常の中で感じ取れるような働き方を目指していたのです。
 

コロナ禍によって、オフィスのデザインはその歴史においておそらく最大の変化を経験したといえるでしょう。そしてそれらは仕事に対する考え方や、オフィスに来る理由を劇的に変えさせました。今は、人々のさまざまな働き方が評価されるようになりましたが、一番大切なのは企業が従業員を理解し、従業員から最大の価値を引き出すことではないかと思います。

重要なのはデザインに込めようとするメッセージを明確に打ち出すことです。会社の価値観やメッセージ、あるいは従業員に考えてほしい方向を、アート表現に込めることができます。そうすることでこの場所を訪れた人がワクワクし、感じたことやストーリーを周囲の人達に伝えていくことが新しい種を蒔くことにつながります。今回大阪オフィスに配置した作品は全体としてNCMのイメージを伝えながら、それぞれが非常にユニークなストーリーを持つものばかりです。ただどの作品についても、文字通りの解釈はしてほしくありません。アートを見ることで会話が弾むような、抽象的な意味を含んでいる作品だからです。例えばピッチエリアにあるウォールアートは、NCMの従業員とその子供たちと一緒につくりあげたことで、作品は皆さんへのエネルギーとモチベーションに変わっていきました。そしてそのエネルギーとモチベーションはこの場に生き続けていると思います。「私はこれに関わったよ」とか「私の子供はこの作品に参加したよ」とアートを見るたびにそう思うことでこの新しいオフィスが自分達のものであるという気持ちがいっそう強くなっていくのではないでしょうか。
 

企業にとって本当に大切な価値観を表現する

「企業として時代に適応し、常に成長し続ける必要がある。優秀な人材にこの会社で働きたいと思わせるような方法を考えなければならない」という思いで、会社が大阪オフィスのような空間をつくり、アートに対する考えを受け入れているとことは本当に素晴らしいと思います。この空間のために特別にキュレーションされたアートがこれだけ揃っているオフィスは、日本にはそれほどに多くはないと思います。NCMが将来に向けてよりよい土台を作ろうとしていることをよく表しています。従業員が幸せな気分になれるように会社が投資していることを意味し、意味のあるものごとは、新しいコミュニケーションを生み出すきっかけにもなります。私にとってもNCMのアートの受け入れ方に立ち会えたことはとても刺激的でした。
 

アート作品はすぐに理解できるものなら、一度見ただけで「はい、わかりました」と、背景に溶け込んでしまいます。一方、NCMに配置されているアートには毎回新しいことに気づかされます。例えば、冬の光や、昼と夜では同じ作品が違って見えることに気づき「これについて、どう考えたらいいのだろう」となり、今までと同じように考えることはできなくなるのです。文字通りの意味を持たないアートの素晴らしさはそこにあります。
表計算をすれば必ず正解が導き出されます。2+2は必ず4になるように。でもこれらのアートを見るたびに、2+2=5だったり、2+2=8、2+2=A…その答えは無数になるでしょう。そういった感覚が仕事や人生をより豊かにしてくれるのではないでしょうか。

アートというと少し難しく考えがちですが、アートの専門家である必要もないですし、あえて好きだという必要もありません。「このアートは自分の趣味ではない」というのも反応のひとつでそれが感情的な反応です。人はアートを見て、その人なりの意見を持ち、会話を始めることができます。 そして、その会話はまた別の何かのきっかけになるかもしれません。アートは正解も不正解もない、「生きた感情」そのものなのです。
 

 
Ash Every
NCM 大阪オフィスリニューアルプロジェクト
クリエイティブディレクター

Ash Every Design Office
Founder

MEMBER’S VOICE