なぜ自ら変わらなければいけないのか?
日本をもっと元気にしたい

自分たちが変われないのに、お客様を、世の中を変えることはできない

働き方改革自体は以前からその必要性が議論されていましたが、コロナ禍をきっかけに働き方の変革は多くの企業にとって「必要なもの」から「避けられないもの」となり、このテーマは経営課題へと格上げされたと感じました。そしてその課題を突き詰めていくと‟従業員のエンゲージメントの向上”と‟企業のイノベーション活動の促進”の2つに集約されることがわかってきました。
企業が抱えるこれらの問題の解決に、正面から取り組むにはどうしたらいいか。その答えを求め、私たち日建設計コンストラクション・マネジメント(以下、NCM)は「Strategy & Design Management事業部」を立ち上げました。
この事業部には、経営者目線で戦略的に課題を解決するために外部から多様なバックグラウンドやスキルをもったメンバーを集めました。お客様の課題の解決を目的とし、建物や設計以外の領域からのアプローチも可能にしています。
私たちの大阪オフィスリニューアルプロジェクトは、NCMが未来のワークプレイスをどう考えているのか企業としての姿勢を社会から問われていると感じました。このような背景から、大阪オフィスのリニューアルは、Strategy & Design Managementの事業として、お客様を意識したサービスを含むプロダクトをつくり込む実証実験の場となっていきました。

自分たちが変わることができていないのにお客様の環境を変えようなんて、コンサルティングをする上で説得力ないですよね。自分たちが実際にチャレンジして、実体験をもっているからこそ自信をもってお客様によい商品やサービスを提案することができますし、変わる必要性を説明することができると思うんです。
我々自身が「変わるって素晴らしい」という成功体験を積む事で、その経験や知見から発する言葉は本物になり、伝わる言葉に変わっていくはずなんです。
 

目指したのは紹介したくなるオフィス

検討開始当初はゼロベースでオフィス移転の可能性まで遡り検討をしましたが、利便性も含め、大阪所属の多くの従業員がこの場所に愛着をもっているということが調査でわかり、日建設計発祥の地でもある住友ビルディングに居る意味を再認識しました。
しかし従業員だけが満足するオフィスで終わらせてはいけない。お客様やグループ会社の人たち、同ビルに入っている企業、地域コミュニティの人たちが来たらどうなるか、ということも想定できるように幅広いステークホルダーを設定しました。内向き志向にならず、このオフィスは誰のためにつくったのかというところに立ち返ることができました。
これからNCMに入社する学生さんやキャリアの皆さんにも魅力的に思ってもらい、もっともっと優秀な人材をエンゲージさせるオフィスにしたい。ここは自社のブランド発信の場所であり、外部とのつながる場所であることも重要だと思ったのです。そこで我々は「人に紹介したくなる」オフィスであることを目標の一つにしました。
また、理想とする働き方ってなんなのか。実際に働いている従業員を集めて「本当はこう働きたいんだけど、現実こうだよね」「そのギャップをどういうふうに埋めようか」と、一日の働き方、一週間の働き方をそれぞれシュミレーションしてもらって、じゃあこういう出会いや体験がこのオフィスで起こったらいいな、というものをみんなでディスカッションしました。いわゆる体験設計(Experience Design)の手法です。丁寧なプロセスを踏みながら何度もワークショップを行い、エンドユーザーである従業員と一生懸命話をしました。
私たちNCMの企業としてのブランドを発信できる場となり、会社が何を考えているのかが体現された空間で働くことで愛着や誇りをもって働くことができるように、そんな期待と思いを込めて取り組んでいきました。
 

オペレーションやサービスから考えたオフィスづくり

我々の本業である空間設備といったハード面からアプローチするのではなく、従業員の体験や働き方というソフト面からワークプレイスを考えるプロセスを辿った結果、運用まで踏み込んだ、オフィスサービスのフルパッケージをつくる実験の場になっていきました。
その過程で、オフィスをただのコストを投下する場ではなく、事業に対する投資の場にすることを強く意識するようになってきました。例えば今回の専任のコミュニティマネジャーの設置やオンラインコンシェルジュサービスの導入などは、運用に関する投資的な挑戦になります。

組織におけるコミュニケーションの活性化は、イノベーションや企業の成長、働いている人たちの幸福度と密接な相関があり、重要な経営課題になってきています。それならば、コミュニケーションに関する仕事を本業の片手間に行うような現状はおかしいのではないか、専任で本腰を据えて取り組む人やチームを組織に組み込む必要があるのではないか、という問いから、コミュニティづくりを真剣に考えて行こうという取り組みになりました。コミュニティという目に見えないものをつくっていく作業はとても高い挑戦が伴いますが、私たちはそこを先駆けて証明していきたいと思っています。

つけ加えると、私が転勤で東京から大阪地区への異動で経験したことが、“おせっかいオフィス”のネーミングに影響しています。仕事に集中しているときに会社のおじさんたちが平気で声をかけてくるんですよ。「アイスどうや?」って。会議室に閉じこもって仕事しているのに、ドア開けて「なにしてん?」って。ちょっとお節介がすぎるなと(笑)。
その当時、大したことでもないのにプレッシャーを感じて頑張りすぎていたことを「たいしたことないやないか。アイスでも食うぐらいの余裕見せろや」という先輩からのメッセージだったんじゃないかなと今ならそう思えます。
コロナ禍を経て、リモートワークが急速に浸透した今、組織運営に必要なものってまさに「おせっかい」なんじゃないかと。普通はここまでなんだけど、そのラインを踏み越えることではじめて人とつながっていく。「おせっかい」こそが大阪が誇るべきカルチャーであり、探していたキーワードがたまたまそこ(大阪)にあったと感じています。
会社に行かないとおせっかいをしてもらえないですからね。リモートワークでは得られない体験だと思っていて、それは本当にオフィスに行く意味っていうところにも、このキーワードがつながってくるのかな、と思いました。
 

最終地点は「日本を元気にする」こと

リモートワークという選択肢がある中、企業として今のオフィス面積を維持するという判断をしているので多くの人にオフィスに来てもらって有効活用しなければいけないですよね。オフィスをどうしていくか、それは企業が独自に判断すればよいのですが、単純に「こういう働き方でいきましょう」と掲げるだけでは、それぞれの企業が抱える固有の課題解決につながらないと思っています。
オフィス空間や設備だけでなく、人事評価制度や採用、人材育成など、いろいろな施策が整合性をもって大きな目標に向かっていく、その中の一つがワークプレイス戦略で、この大阪オフィスもその一つという位置づけなんです。まず最初に大きな目標と戦略を考えるべきで、「あそこのオフィスがこうやってるから、うちもやらなくちゃ」ではなく、やはり企業独自の目標やミッションに向け挑戦していかなければいけないと思っています。
周りの様子をうかがい、横並びの施策を実行したところでイノベーションは起こらない。アクションに対してどんなリターンがあるかを性急に求めるのではなく、この大きな目標を達成するために、今このアクションが必要なんだと、アクションと大目標との紐づけを確実にすることで、投資の価値が見えてくるのだと思います。
もちろん挑戦すれば失敗もあって、この大阪オフィスのプロジェクトも完成までに困難をたくさん乗り越えてきましたし、今も試行錯誤の真っ只中です。自社のプロジェクトを通じてその難しさを実際に経験したからこそ、お客様とどのように苦労を分かち合い、プロジェクトを成功に導くことができるのか、お客様と一緒に考えていけるんです。これらの経験や知見を活かして、さまざまな課題を抱えられている企業と共に「変わっていく」経験をつないでいくことで、最終的には日本全体を元気にすることを目指しています。
 

 
佐々木 康貴
NCM 大阪オフィスリニューアルプロジェクト
プロダクトマネジャー

日建設計コンストラクション・マネジメント
Strategy & Design Management 事業部 ディレクター